「ただちに影響はありません」の意味2011/04/29 13:31

あらためて考える、「ただちに影響はありません」の意味

 100ミリシーベルト以下の放射線被曝による影響を、個人レベルで立証することは極めて難しいことです。なぜなら、放射線の影響は「確率的」だからです。
 100ミリシーベルトで将来の発ガン確率が0.5%上昇します。そして、発ガン確率は被曝量に比例します。これについては、広島長崎のデータがもとになり、御用学者でも認めています。だから、20ミリシーベルトの被曝なら0.1%上昇します。それは、10万人の集団で100人という人数です。
 もし、私が20ミリシーベルトの放射線被曝を受けたとします。発ガンリスクが0.1%上昇しました。もし、私が20年後にガンを発病しても、それが被曝のせいかどうかを立証することは、おそらくできません。発ガンの原因はいろいろあるからです。わかるのは、ある集団全体で、発ガン率が増えたことから、被曝の影響が疑われるということだけで、それだって、分かるのはずっと後のことです。被曝による発ガンのピークは白血病でも10年以上後、普通のガンでは20〜30年後です。30年もたってから、被曝を受けた地域の人々のガンの発生率が上昇したとわかっても遅すぎます。
 原発労働者でさえ、被曝による労災認定を受けたのは、この35年間にわずか10人です (このデータ4/27に初めて公表されました)。被曝量は5〜130ミリシーベルトでした。認定されているのは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など被曝と関係深いガンのみです。労災になるのは氷山の一角で、ほとんどが泣き寝入りといいます。一般のガンではまず、被曝との関係は証明できないのです。
 つまり、「『ただちに影響はない』レベルの被曝を受けたら、そのせいで将来発ガンするかもしれないが、因果関係の立証は不可能なので、国にも東電にも責任はありません」ということなのです。国にとっては「ただちに影響のない」レベルの被曝なら問題ないのです。でも、個人にとっては違います。
 
 原発事故賠償問題の報道を見ていて思いました。国の原子力損害賠償紛争審査会によると、30キロメートルの避難区域と屋内退避区域の住民約8万3千人と計画的避難区域の住民約1万人らに対して賠償責任があるとしています。ということは、これ以上避難区域を拡大すれば、賠償額はどんどん膨らむことになります。そこで、国としては、できる限り避難区域を狭くして、国や東電の責任範囲を限定したい。その限界線はどこかという判断から、「20ミリシーベルト」という数字が出てきたのか!と確信しました。計画的避難区域の指定も20ミリシーベルトが基準となっています。
 前回にも述べましたが、20というのは、ICRPが非常事態後に居住可能としてもよい参考レベル1〜20の最大値です。つまり、これ以上は国際的にも認められないギリギリの数値なのです。20ミリシーベルト以上の年間被曝量を超える所に住まわせた場合、責任問題が生ずる可能性があります。裏を返せば、それ以下の地域なら、たとえ19.9ミリシーベルトであっても、責任はないということを決めたのです。しかも、将来の発ガンリスクが増えたところで、個人に対しては責任を取る必要がないからです。
 だから、国は「福島県の皆さん、避難区域以外は全く安全です」と断言できるのです。しかも、それ以外は一切言わないつもりです。あいかわらず、マスコミ総動員で「これくらいの放射能は安全です」キャンペーンを張っています。出てしまった放射能はしょうがない、どうせ「ただちに影響はない」のだから・・・と考えているとしたら、本当に許せない。

(追記)
被曝による発ガン死リスクを、100ミリシーベルト当たり0.5%とするのはICRPの見解ですが、UNSCEAR(放射線影響国連科学委員会)はこれを1%としています。その場合、20ミリシーベルトでは0.2%、つまり200人に一人ということになります。さらに、子どもは大人の5倍のリスクとする評価があります。その場合、20ミリシーベルトでは、なんと40人に1人という確率になります。クラスに一人!恐ろしいことです!

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