玄海原発の危険性2011/06/25 18:53

緊急炉心冷却装置(PWR)概念図
 「玄海原発」と入れてネット検索をすると、「玄海原発は爆発する」というタイトルが出てくるはずです。これを見て、びっくりされる方も多いと思います。このことは、週刊現代の最新号(7/2号)に掲載されています。そこには、専門家の話が詳しく載っていますので、私があらためてお話しするまでもないのですが、自分のためにも、一度簡単にまとめてみたいと思います。

 「中性子照射脆化」・・・いきなり難しい専門用語で申し訳ありません。「脆化(ぜいか)」とは、金属が弾力を失い「脆く(もろく)」なることです。中性子は原子核を作る粒子の一種で、核分裂反応にともなって飛び出してきます。運転中の原子炉内は中性子が多量に飛んでいます。これは大変なエネルギーをもっていて金属原子の結晶構造を少しずつ破壊します。このため、長年にわたって中性子を受けた金属は脆くなってしまいます。人間に例えれば「骨粗鬆症」みたいなもの。
 金属は本来粘り強さをもっていますが、余りに低温になると、硬くなって粘りを失い脆くなります。通常、鋼鉄ではマイナス20℃くらいで脆くなります。こうなると、力がかかった時にパキンと陶磁器のように割れてしまいます。このように、「脆性」が現れる限界温度を「脆性遷移温度」といいます。「中性子照射脆化」が進むと、その温度が上がっていきます。つまり、そんなに低温でなくとも本来の粘りを失ってしまいます。
 玄海原発1号機の圧力容器の「脆性遷移温度」は、なんと「98℃」でした。九電は原子炉内に入れたサンプル片を定期的に調べています。1975年運転開始以来、76年は35℃、80年は37℃、93年は56℃、ところが2009年は98℃に急上昇、急激に劣化が進んでいることが分かりました。
 なお、玄海原発は「加圧水型(PWR)」といわれる原子炉です。簡単に言えば、水を満タンにしたタンクで、高温でも水が沸騰しないように超高圧になっています。温度は300℃で、圧力はなんと150気圧にもなっています。(ちなみに福島原発は沸騰水型(BWR)で耐圧限界は85気圧)それを支えているのが厚さ10cmの鋼鉄製圧力容器なのです。

 話が長くなってすみません。だから何が起こる?ということです。どの原子炉にも「緊急炉心冷却装置(ECCS)」が付いています。緊急時に冷却機能が極めて重要なことは今回の事故でよく分かりました。その中の一つ、高圧スプレー系は緊急時に水を噴射して圧力容器を冷やす仕組みです。
 いきなり冷たい水をかけるので原子炉は急冷されます。その時です、98℃以下になると圧力容器が脆くなり、圧力に耐えられなくなって、一気にバーンと破裂するという最悪の事故になる恐れがあるのです。そうなると、原子炉の中身はほとんど吹き飛んでしまいます。もちろんそういう事故はこれまで世界で起こったことがありません。福島原発でも炉内の放射能の90%近くはまだ中に残っています。

 こんな危険な原子炉が実は今も動いています。玄海原発では2、3号機の再稼働が問題となっているわけですが、実は運転中の1号機が最も危ない。浜岡の論理で言えば「危険の差し迫った原子炉は運転中であっても止める」ということです。それは、再稼働以前の問題です。福島原発事故で、これもよくお分かりかと思いますが、並んだ4つの原子炉どれか一つでもドカンとなれば、後の3つはどんなに上手くいっていても、その瞬間から手出し不能となって、後は破局を待つばかりとなってしまいます。
 再稼働予定の玄海3号機は日本初のプルサーマル原子炉です。今回さらにプルトニウム燃料を足して運転予定。老朽化した危険な原子炉の隣で、危険なプルトニウム入り原子炉を動かす。そういうことになろうとしています。

 今回は二つだけリンクをご紹介します。
玄海原発は爆発する
原子力発電所の再開に対する根拠を示せ(玄海原発プルサーマル裁判の会)
すでに原発の被害は出ているのです。

コメント

_ 名前は現在思案中 ― 2011/06/29 18:27

 「98℃」は九電が公式に発表した数値ですか?もし真実なら、圧力容器の温度が百数十℃の高温状態で定期点検を行わなくてはならず、そんな状態で容器の蓋を開けたら急減圧で水蒸気爆発するかもしれないし、建屋内に蒸気がこもって安全衛生上好ましくありません。また、運転停止して容器が冷えたら脆性破壊が起こり、永久に廃炉にも出来ないという事になりませんか?
 ところで、蒸発で水位低下の恐れの無い「加圧水型」でも冷温停止で98℃以下しなければいけないでしょうか?その時の冷却水圧の沸点以下であれば、良い様な気がします。

_ トムティットトット ― 2011/06/29 21:26

98℃は原子炉に入れておいた試験片の測定結果です。九電はここから本体材料の脆性遷移温度を計算により推定しています。なお、温度を下げれば必ず脆性破壊が起こるのではなく、「加圧熱衝撃」という、内圧が高い状態で原子炉容器が急冷され、容器の靱性が急冷によって低下をして、内圧と熱応力による高い荷重が発生するようなことになった場合に、破壊の危険があるということです。参考:http://cnic.jp/files/roukyuuka20110312.pdf

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