「もっとも安全な原発は脱原発」菅直人前首相〜国会事故調参考人聴取2012/05/30 17:29

国会事故調で参考人として証言する菅直人前首相
 5/28、国会の福島原発事故調査委員会(国会事故調)で、菅直人前首相の参考人聴取が行われました。すでにマスコミでは様々な報道がされています。「『人災の元凶』に反省なし(産経)」「反省なき菅前首相の脱原発論(読売社説)」など、菅前首相を悪玉に決めつけた論調が目立ちます。はたして、それだけでしょうか。この聴取の様子は一部始終がネットで公開されています。前首相の言葉をそのまま聞きたいと思い、2時間50分という長時間ですが、最後まで視聴しました。家にいながらネットでノーカットの録画映像を見られるとは便利になったものです。やはり、マスコミフィルターを通さず自分の目で視て耳で聴くことは、本当に大事だと痛感しました。
 事故調委員の質問は、菅前首相の組織マネジメントの問題に集中していました。最近の言葉で言えばガバナンスの問題です。例えば、東電本店に乗り込んで大声で叱責したため現場の士気を損ねたとか、吉田所長に直接電話をしたり官邸が過剰に介入したため現場の邪魔したとか、勝手に外部専門家の助言を頼んだとか、これはほんの一例ですが、このような菅前首相の言動と資質に関する問題に質問が集中し、多くの時間を費やしています。
 しかし、どこか本質からズレているような気がしてなりません。原発事故にあたって首相の器を論じても仕方ないような気がします。もし、名宰相がこの事故に臨んで、政府、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、そして東電、これらが当時持てる最大限の能力を発揮して対応したら、こうはならなかったかと言うとはなはだ疑問です。首相の器が立派なら少しはマシな対応があったかもしれません。しかし、3.11以前の、保安院や安全委員会、東電、どれをとっても、まともに動けたとは思えません。
 菅氏の証言からは事故直後の混乱がひしひしと伝わってきます。これも首相の責任と言ってしまえばそれまでですが、とにかく首相のところに情報が上がって来ない、原発がどうなっているのか分からない、保安院からも東電からもちゃんとした情報がない、と証言しています。自分が統治する組織への不信感、そして、このままでは破局に向かうという圧倒的な危機感があったと言っています。少なくとも菅氏には突然国家存亡の危機に立たされた首相という認識があったようです。
 東電が撤退を申し出たという問題についても聴取され証言しています。撤退し現場を放棄したら、それこそ破局に向かうだけだから、絶対にそれはあり得ないと思ったと言います。当時の清水社長に撤退はダメだと言うと、社長は「ハイ分かりました」と言ったと証言しています。この話、すでに海江田元経産大臣、枝野元官房長官、そして菅前首相という、時の政府3首脳がそろって証言しているのに、東電は未だに認めていません。どちらかが嘘をついています。私は、菅氏の話を聞いてこれは本当だと確信しました。今後、清水前社長に対する聴取が絶対に必要です。
 2時間40分経過した最後の締めくくりの所で、菅氏は重要なことを言っています。今後どうしたら良いと思うかと聞かれて答えたものです。要約すると次のようなことです。
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 かつてゴルバチョフはチェルノブイリ原発事故によってソ連という国家の病根がすべて照らし出されたと言った。それとまったく同じように、福島原発事故では日本という国の病根がすべて照らし出されている。また、私には戦前の軍部と現在のいわゆる原子力ムラが重なって見える。あらゆる異論反論を村八分として排除してきた。そして、事故後の今もなお何の反省もなくこれが続いている。原子力ムラの実態を解明しそれを解体することこそ我々がやるべき第一歩である。今、国民は原発依存をこれからも続けるか否かの選択を迫られている。私は、この事故で国家崩壊の危機を経験した。そして、もっと安全な原発は、原発に依存しない、すなわち脱原発であると確信した。
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 当時の最高責任者であった首相が何を今更言ってるんだという批判や反発もあるとは思います。しかし、かつての最高責任者自らが心底訴える「脱原発」にもっと耳を傾けなければならないと思います。事故直後から菅前首相一人に責任を押し付けて幕引きを図ろうとする勢力が存在しています。さらに、脱原発口封じを図ろうと躍起になっています。マスコミもそのお先棒を担いでいます。そのような動きに惑わされてはいけないと思います。
 もちろん私のコメントには私のフィルターがかかっています。ですから多くの人にぜひ自分で菅前首相の言葉を聞いて確かめてほしいと思います。

国会事故調 第16回委員会 2012/5/28 
(USTREAM録画)
http://www.ustream.tv/recorded/22911577