渡良瀬遊水池「ヨシ焼き」再開!〜「セシウム野焼き」の危険性?2013/02/25 20:05

渡良瀬遊水池ヨシ焼きの様子
<文末に補足がありますー3/2>

 栃木、群馬、茨城、埼玉の4県にまたがる渡良瀬遊水池、その広大なヨシ原を野焼きする「ヨシ焼き」、原発事故の影響で一昨年昨年と中止されていましたが、今年再開されることになりました。3月17日、600ヘクタールに火がつけられます。ガレキ焼却や除染廃棄物処理がこれだけ問題になっている中で、広大な野焼きがどうしてできるのか、まず疑問に思いました。

◆セシウムの総量は7億ベクレルか?
 ヨシと下草に含まれる放射性セシウムの濃度は、今年1月の調査で乾燥重量1キログラム当たりで89~258ベクレル(5検体)、前回2011年12月から2012年1月にかけての調査では、ヨシで不検出~42ベクレル(3検体)、下草で122~420ベクレル(4検体)でした。ヨシと下草を一緒にするか分けるかで数値が変わりますが、ごく大雑把にヨシと下草合わせて全体を平均するとセシウムの濃度は1キログラム当たり130ベクレル位になります。
 今回火入れする面積は600ヘクタールです。これでも例年の4割ほどに縮小されています。だいたい皇居の3倍ほどの面積に相当します。これだけの広さが燃えるわけですから灰になるセシウムも相当な量です。全部でどれくらいの量になるのかをざっと計算してみました。あくまでも机上の計算ですが。
 結論から言うと、およそ7億8千万ベクレルになりました。ヨシ原1平方メートル当たりのヨシと下草の現存量(バイオマス)を乾燥重量でだいたい1キログラムと見積り、今回焼かれる総量を計算すると6000トンとなります。そこに放射性セシウム濃度130ベクレルを掛ければ総量が出ます。  つまり、今回のヨシ焼きで推定7億ベクレル以上のセシウムが灰になる可能性があるということです。そしてひとたび灰になれば新たな拡散と流出が起こるのは必至です。

◆瓦礫焼却では100ベクレル基準なのに130ベクレルの野焼きはOK?
 ヨシ焼きでは大量の灰が舞い上がってその時の風に乗って流れていきます。これまでも灰が降るという周辺住民の苦情が絶えませんでした。大きなものでは5センチもの灰が落ちてくることもあるといいます。それよりも問題なのは、目に見えないほどの細かい灰や煙で、これは相当広く遠くまで拡散するでしょう。
 「この煙を吸い込んでも被曝量は無視できるほど小さい」という専門家の分析がヨシ焼き再開安全性判断の根拠となっています。「焼却作業中の灰を吸い込んだ場合の内部被曝量は1時間当たり2.8マイクロシーベルトで、自然放射線による年間被曝量の1000分の1程度なので問題ない」というものです。1000分の1というととても小さいようですが、1年間は8760時間もありますから、1時間当たりで自然放射線の8倍以上になるとも言えます。
 いずれにせよ、このような論拠で安全判断をするのであれば、ほとんどすべての瓦礫焼却も即刻OKとなるでしょう。多くの自治体が、震災瓦礫受け入れにあたって、焼却前瓦礫1キログラム当たりで放射性セシウム濃度100ベクレル以下を受け入れ基準にしています。しかも、高性能フィルターなどを備えた専用焼却施設で燃やしたうえ焼却灰も厳重に管理するようにとされています。それなのに、平均130ベクレルのヨシ原を野焼きしても良いのでしょうか?とても不思議です。(続く)

 この問題、とても一度では紹介できないので何回かに分けてお話したいと思います。次回は、「放射能の減らない遊水池の特徴」についてお話ししたいと思います。さらに、「ラムサール条約とヨシ焼き再開に至る経緯」、番外編で「渡良瀬遊水池の歴史と因縁」と続ける予定です。


(参考)試算方法
 渡良瀬遊水地のヨシ原の現存量を調べたデータが見当たらなかったので、琵琶湖のデータを参考にしました。琵琶湖での調査(吉良1991)によると、ヨシ群落におけるヨシ地上部の現存量(バイオマス)は1平方メートル当たり平均で731グラム(乾燥重量)とされています。下草の混在割合を3:1と仮定すると、ヨシと下草合わせて1平方メートル当たりおよそ1キログラムというのが植生の現存量といえるのではないかと考えます。
 したがって、600ヘクタールは600万平方メートルですから、ヨシ+下草で総量600万キログラム(6千トン)ということになります。放射性セシウム濃度を1キログラム当たり130ベクレルとすると、130×600万=7億8千万ベクレルということになります。

ヨシ焼き:渡良瀬遊水地、3年ぶり再開へ 周辺4県協議会、内部被ばく「問題なし」(2/2毎日新聞栃木版)

渡良瀬遊水地 区域分け時間差点火 来月17日のヨシ焼き 連絡会が詳細発表(東京新聞)

渡良瀬遊水地ヨシ焼き再開に伴う放射能の影響について(協議会見解案)

<3/2補足>
・煙へのセシウム分配率は20〜40%で燃焼温度が高くなるほど煙への分配率が高くなる。つまり高温で野焼きされるほど煙の微粒子となって拡散するということです。
圃場での雑草等の処理に伴う放射性セシウムの飛 散防止技術の開発

・薪ストーブ等で燃やすことのできる薪の放射性セシウム濃度基準は、40ベクレル以下(1キログラム当たり)です。
調理加熱用の薪及び木炭の当面の指標値の設定について