放射能汚染より自然保護?〜渡瀬遊水池「ヨシ焼き」問題32013/03/06 18:54

ヨシ焼き風景(渡良瀬遊水地アクリメーション振興財団HPより)
 渡良瀬遊水池でヨシ焼きが始まったのは1955年頃からで、昭和30年代は全国のよしずの7割をここで生産していたそうです。質の良いヨシを採るために年に一回ヨシ原を焼き払うようになりました。その後中国産のよしずに押され生産者も減った今では樹林化防止や害虫駆除などを目的に存続されていました。近年はヨシ焼き自体が多くの見物客を集める一大観光イベントになっています。観光バスでやってきた来た写真愛好家たちが堤防にずらりと並ぶほどです。
 そんな中、最近さかんに言われるようになったことがあります。それは「ヨシ焼きは生態系保全のために重要」ということです。遊水池のヨシ原は全くの自然のように見えますが、実は人為的にバランスの保たれた生態系になっています。毎年焼き払われることによって植生の移り変わり(遷移)をリセットし、春先に地面への日照が確保され一斉に芽生えが始まることなどにより、結果的にそれに適応した様々な希少植物が生育できる環境になっています。いくつかの絶滅危惧種も確認されています。このような観点から改めてヨシ焼きの意義をとらえるという新しい動きもあるのです。
 今回のヨシ焼き再開の背景にはこの動きが絡んでいます。
◆ヨシ焼き中止から一転「再開」への動き・・・「自然保護」派の声を背景に
 さて、それでは今回のヨシ焼きの再開に至る経緯を簡単にまとめてみましょう。ヨシ焼きは毎年3月に実施していましたが、2011年は大震災直後で、それどころではなく中止になりました。計画停電や消防関係者を動員できないというのがその理由です。2012年は、放射能に関して安全性を確認できないからという理由で中止になりました。実際に放射能に対する周辺住民から不安の声が多く寄せられていました。ちなみに、その時の測定値はヨシからは最大で42ベクレル、下草からは最大で420ベクレル(乾燥重量1kq当たり)でしたので、むしろ今回の測定値の方が高いくらいです。
 こうして2回続けて中止となり、ヨシ原に手が付けられないでいたわけですが、昨年その状況を大きく変える出来事が起こりました。昨年7月、渡良瀬遊水池がラムサール条約の登録を受けたのです。これ自体は喜ばしいことです。世界的に貴重な湿地を守るための条約に登録されたのですから。
 ところがこのころから「ヨシ焼き」をめぐる動きが変わってきました。生態系保全のためのヨシ焼き再開を求める声があちこちから上がってきたのです。昨年11月には周辺の自然保護団体と治水団体4者が国土交通省に再開を求める署名を提出しています。ヨシ焼きをやらないため害虫が発生、ヨシの生育の悪化、希少な植物も減少しているというのがその理由です。
 そして、まるでこれが呼び水になったかのように、国と周辺自治体が動き始め、年明けの1月11日に周辺自治体の首長らを中心にした「渡良瀬遊水地ヨシ焼き再開検討協議会」が設置されました。そして、ひと月も経たない2月1日に第2回会議が開かれ、専門家による「安全確認」のもと、いともあっさりと「再開」が決定されたのです。日時は3月17日と決められました。なお、今回から主催者が「渡良瀬遊水池利用組合連合会」(生産者団体)から「渡良瀬遊水地ヨシ焼き連絡会」(自治体主導)に変わりました。一説では、連合会としては「何かあったらとても責任がとれない」からという話です。
 「ヨシ焼き再開」の直接的根拠は「安全が確認された」ということですが、「ラムサール条約に登録された生態系を保全する」ためという背景があるのです。これでは「自然保護」という「錦の御旗」を立てての再開強行ではないでしょうか。
 これが、おおまかな動きです。
◆「放射能汚染問題」を「自然保護問題」にすり替える動き
 結果的に、ヨシ焼きによる希少動植物の保護というメリットと放射性物質の拡散というデメリットを秤にかけて、メリットの方をとったのです。かつて、原発を「二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギー」「地球温暖化防止の切り札」などと、あたかも「自然保護」のために原発が必要だというような宣伝がされた時代がありました。というか今でもそういう人々がいます。そのときは地球温暖化防止条約(京都議定書)をお墨付きに使いました。この論理展開と似ているような気がしてなりません。今回は、ラムサール条約というお墨付きを利用し、自然保護という「錦の御旗」を掲げて、ヨシ焼きは「自然保護」のために必要と言っているのです。目に見えない放射性物質より、目に見えるきれいな草花の方の方が注目されやすいのは事実です。でも、きれいな草花の再生のために見えない放射能を拡散させても良いのでしょうか。
◆ヨシ焼き再開のために用意された「科学的」判断!  連載第1回目に書きましたが、専門家による「安全確認」は単にシミュレーションによって「このくらい被曝しても問題ない」というレベルの話です。これが「科学的根拠」であるなら、昨年の放射能レベルとまったく変わらないか、むしろ高くなっている状況で、昨年は「安全でない」が今年は「安全」ということに違和感を感じます。ちなみに専門家見解を出した埼玉大学の井上教授は宇宙線物理学が専門で、放射線生物学は全くの専門外です。しかもこんな短時間では自ら詳細な現地調査を行ったとは到底思えません。
 ストーブで燃やす薪の安全基準が1キログラム当たり40ベクレル、震災瓦礫の焼却前安全基準が同じく100ベクレルというのに、なぜ250ベクレルもあるヨシ原を野焼きできるのでしょう。今回の専門家見解を使えば薪も瓦礫も何でも燃やせます。
 どう考えてもそれは「ヨシ焼き」を再開するために取って付けられた理由に見えます。
◆湿原の保全にとってもっとも必要なのは「ヨシ焼き」より「水」
 湿原自体が消えてなくなればヨシ焼きもへったくれもありません。渡良瀬遊水池は100年間の間に一貫して乾燥化が進んでいます。実はヨシ原になったのも、沼や湿地が土砂に埋まり陸地化したからです。前回書いていますが、河川運搬土砂の沈殿は遊水池の宿命です。近年、上流のダムや河道掘削の影響でどんどん水の量が減りがますます乾燥化が進んでいます。このままではヨシ焼きとは関係なく湿原は失われていきます。
 足利の渡良瀬川も私が子どもの頃より極端に水が減っています。そのため水質も悪化しました。特に上流に草木ダムができてからそうなりました。遊水池の環境問題は歴史的にも空間的にももっと広い範囲で考えなければなりません。
◆原発事故は終わっていない
 事故が2年が経過しようとしている今、まるで過去の出来事であるような、もう放射能の影響はなくなったような、そんな雰囲気があちことで作られようとしています。放射能汚染の実態を隠し放射能再拡散をまるで無視した渡良瀬遊水池のヨシ焼きは、危険な「安全」デモンストレーションとなる恐れがあります。

生態系支える炎(読売新聞栃木版06/6/28)

渡良瀬遊水地など登録 ラムサール条約(下野新聞12/7/3)

こちらから「ヨシ焼き再開を求める要望書」がダウンロードできます。(わたらせ未来基金ホームページ)

平成25年 渡良瀬遊水地ヨシ焼きのお知らせ(財)渡良瀬遊水地アクリメーション振興財団

コメント

_ よしずや ― 2013/03/14 21:54

私の家はこの渡瀬遊水地に自生している、ヨシを刈り、ヨシズを作っています。
確かに、放射能の心配等もあるかと思いますが、このヨシで生活しているものもいるのです。燃やさないことにより、ヨシも悪くなり、手間も増えました。原発もそうでしょうが、みんな立場や見解があるのです。

_ (未記入) ― 2013/03/17 08:23

もうすぐあの迷惑なヨシ焼きが始まるのか。灰がよしずやさんの家だけにふりかかればいいのだが。いろいろな見解があるというのはわかりますが、他人に迷惑をかけるのはよくない。またいろいろな見解があっても、科学的な根拠を無視していいことにはならない。

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