福島の子どもに甲状腺ガン!〜被曝との関係は?2013/02/20 21:41

ベラルーシの子どもの甲状腺ガンの数
 福島原発事故発生からもうすぐ2年が経とうとしています。2月13日、福島県県民健康管理調査検討委員会は県内の3万8千人の子どもについて行った「甲状腺検査」の結果(23年度分)を発表しました。それによると、現時点で10人が甲状腺ガンと診断され、うち3人は手術の結果甲状腺ガンと確定、7人については確定診断まではいっていない段階であることを明らかにしました。とうとう心配されていたことが現実になってしまったかと暗い気持ちになります。
 私は今回の結果を聞いて、すぐにチェルノブイリのことを思い浮かべました。事故後に現れた多くの病気や異常が不当にも被曝との関係を否定されたり立証できないでいる中、唯一世界の学者が一致して被曝との因果関係を認めてたのが甲状腺ガンです。日本でも「被曝による小児甲状腺ガンの増加」がついに始まったのでしょうか。だれもが心配していることですから、記者会見でも多くの質問が集中しました。鈴木真一教授や山下俊一座長らはプライバシーをタテに詳しいデータは一切示さず「被曝とは無関係」と言っています。今回はこのことについて考えます。
◆チェルノブイリ原発事故と甲状腺ガン
 上のグラフ、これはとても有名なデータですが、チェルノブイリ原発事故の前後10年間のベラルーシにおける小児甲状腺ガン(0〜14才)の発生数の推移を見て下さい。なお、ベラルーシの人口は1986年時点で大人も子どもも含めて996万人でした。

97 78 79 80 81 82 83 84 85年 合計
 2  2  0  0  1  1  0  0  1人 7人

86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97年 合計
 2  4  5  7 29 59 66 79 82 91 84 66  574人

 見て分かる通り、事故前の9年間には合計して7例しか記録されていません。ここから年間0〜2人というのがベラルーシの子どもたちの自然発生的な甲状腺ガン発生数と考えられます。統計では10万人当たり年間0.1人で世界的にも標準的な値でした。ところが事故直後から上昇を始め、4年目以降急増しています。事故から10年後の1995年にピークに達し90人を記録、発生率は10万人当たり4人で世界的平均の40倍という高率です。その後減少に転じましたが、これは被曝時の子どもが大人世代に達しているためです。事実大人世代のガンは今でも増え続けています。
 ベラルーシでは事故翌年の87年にすでに年間4件が発生しています。0〜2人が4人になっただけとも言えるし、2倍以上になったとも言えます。この程度は誤差や通常変動の範囲内で統計学的には有意とはいえないのかもしれません。しかし、事故前9年間の統計では毎年0か1か2人しかいなかった、それが4になった、しかも次が5、その次は7、そして・・・ですから、少なくともこの変化には意味があります。
◆福島の発生率は10万人当たり7.9〜26.2人に!
 今回福島県でみつかった甲状腺ガンは、検査結果の出た38,114人に対して確定3人、診断数では10人ですから、単純計算すれば10万人当たり7.9〜26.2人という発生率になります。これは従来の疫学統計からみたら世界平均の100倍以上の極めて高い値です。ベラルーシよりも高いのです。検討委員会の鈴木氏や山下座長は「世界で初めての大掛かりな精密検査を実施したため、従来発見できなかったガンを見つけたので高率となった」と説明しています。確かに無自覚無症状の潜在的なガンの場合、これまでは発見されることはなかったかもしれません。
 しかし、これについては「対照群」の調査を行えばはっきりします。つまり、原発事故の影響を受けていない地域の子どもたちにまったく同様の甲状腺検査を実施すれば良いのです。すでに昨年から環境省が青森県、山梨県、長崎県で計4500人の子どもで調査を行っています。その結果は3月に発表されます。ただ、4500人では少なすぎるのではないでしょうか。なぜなら、これではたった1人でも甲状腺ガンが発見されれば、計算上は10万人当たり22人で福島と同じレベルになってしまいます。これまでの常識から言えば一人も見つからない可能性の方が大きいのですが、0だったら統計的な比較は困難ではないでしょうか。最低でも福島と同数程度は調査すべきだと思います。いずれにしても今回の調査がベースになりますのでとても重要です。
 今後、来年再来年と調査を続けていく中で、変化があるか、どう変わるか、これから長い期間調査が続くことになります。でも、10年も経ってから分かっても遅いことがあります。疫学統計ではなく、一人一人の子どもたちの命と健康のことです。
◆今回見つかった甲状腺ガンと被曝との関係は?
 記者会見で鈴木真一教授は原発事故との因果関係を否定しました。「チェルノブイリで甲状腺ガン発症が増加したのは、原発事故後4〜5年経ってから。元々あったものを発見した可能­性­が高い。」というのがその理由です。
 これは、先ほどのベラルーシのデータで、事故4年後に29人に急増したところをさしているものと思われます。しかし、ここで言えるのは「4年目以後の増加で事故の影響が否定できなくなった」ということなのです。しかも、現在では多くの学者が事故後の増加部分を事故の影響と評価していますので、直後の増加分も事故の影響と見るしかありません。ですから、ごく単純に言えば、2年目の4人のうち2人は事故の影響かもしれません。
 「こんなに早くガンができるはずがない」というのが専門家の見方なのかもしれませんが、被曝による確率的影響で起こる発ガンまでの潜伏期の長さは被曝量に関係することが分かっています。つまり、被曝量が大きいと通常知られているより早く発ガンする可能性があるということです。
 今回ガンまたはガンの疑いと診断された子どもたちに関しては、男子3人女子7人平均年齢が15才ということ以外、地域も推定被曝量も公表されていません。記者会見でもここに質問が集中していましたが、プライバシー保護と統計学的に評価できる段階にないとの理由で公表できないの一点張りです。この姿勢には大きな疑問を感じます。一握りの”専門家”が全てのデータを独占して良いか悪いか判断するやり方は危険です。かつてABCC(原爆傷害調査委員会)が原爆被曝者に関する調査データを独占したやり方と共通したものを感じます。
 話が戻りますが、ベラルーシで87年に甲状腺ガンとされた4人の子どもには放射線の影響があった可能性があります。確率は五分五分ということでしょうか。90年のように29人までになれば9割以上の確率といえます。しかし、どの場合でも個々の子どもが放射線誘発ガンかどうかを直接的に「証明」することは困難です。推定被曝量が大きいほど可能性が高いとするしかないでしょう。発ガンの原因は確率論的に言うしかないということです。
 それでは「福島県で今回見つかった甲状腺ガンと被曝との関係は?」どうなのでしょう。チェルノブイリの知見に照らせば「被曝の影響を否定できない」と見るのが現時点ではもっとも常識的な判断ではないでしょうか。調査検討委員会は、そのことをもっとはっきり言うべきです。今の姿勢は不安を与えまいとするあまりの過小評価とデータ隠しのように見えます。
◆もし自分の子だったら?
 あの時そこにいて被曝した(させられた)事実がある以上、後でどんな病気に罹っても、それが原因じゃないかと疑うでしょう。その不安は一生消えないかもしれません。小児甲状腺ガンという珍しい病気に罹ったらこれは被曝のせいじゃないかと考えるのは当然のことです。ちゃんと治してあげること同時に、何の罪もない子どもを傷つけた責任をあきらかにしなければなりません。それが親の責任だし大人としての責任ではないかと思います。今回の子どもたちは通常診療に移されて手術治療を受けていると言います。ということは、通常の健康保険で医療を受けているわけです。通常診療というのはどこか変です。福島県は昨年10月から18才未満の子どもの医療費を公費負担で無料化しましたので、実質自己負担はゼロになりますが、釈然としません。加害者がいるのですから、まず加害者である東電が補償すべきではないでしょうか。
 さらに、親としては子どもの将来が気になります。心配なのは甲状腺ガンだけではありません。そんな不安を一生抱えなければならないなんて、きっとやりきれないことでしょう。原発さえなければこんな思いをせずにすんだのにと、悔やんでも悔やみきれないと思います。
◆実際にどう救済すべきか
 具体的には、東電と国の責任を明確にして損害賠償や将来にわたる救済と支援を行っていくことしかありません。以前にも書きましたが、被曝の影響は集団レベルでは証明できても個人レベルでの証明はきわめて困難です。集団レベルの証明でも統計を使いますので長い時間がかかります。個々の人間の発ガンの原因を特定し証明することはきわめて困難です。これははっきり言って「科学」の限界です。結局は、影響の認められる集団に属するかどうかで判定するしかないということです。つまり、被曝者としての認定という社会制度的な対応になっていかざるを得ないのではと思います。残念ながら今の東電にも国にもそんなつもりは毛頭ありません。何しろ責任を認めてないのですから。そこを明らかにするところから、出発するしかなさそうです。

参考資料: チェルノブイリ事故による放射能災害国際共同研究報告書(1998)


第10回福島県健康管理調査 記者会見(37分)

「甲状腺検査」の実施状況及び検査結果等について(県民健康調査検討委員会)

チェルノブイリ原発事故後の健康問題(山下俊一)山下教授自身によるチェルノブイリの認識

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