東京湾の魚は大丈夫か2012/03/03 22:36

山崎教授が調べた東京湾内のセシウム濃度(東京新聞より)
 「原発事故由来セシウム濃度・東京湾じわり上昇」3/2の東京新聞1面に載った記事です。驚くと同時にやっぱりという気持ちで読みました。内容的には1月にNHKスペシャル「知られざる放射能汚染〜海からの緊急報告」で放送したものとほぼ同じですが、さらに継続して詳しい調査が必要だと、今後にむけて警鐘を鳴らす記事になっています。これからいったい何が起こるのか考えてみたいと思います。
 上のグラフを見ると、最大で872ベクレルの放射性セシウムが検出されています(以下数値はすべて試料1キログラム当たり)。今のところ東京湾内の汚染は河口付近にホットスポット状に存在すると見られています。河川を流れ下ったセシウムは海水と出会ったところで、塩分の作用により凝集して海底に沈殿します。今後、長い年月にわたり河川からの流入は続きます。調査した近畿大の山崎教授によると、2年後にセシウム濃度はピークに達すると推定しています。
 1月のNHKスペシャルのなかで、茨城県ひたちなか市沖での調査が報告されていました。それによると、海底土(泥質)で304ベクレル、泥中に生息するゴカイで130ベクレル、ゴカイを食べるナメタガレイで316ベクレルのセシウムが検出されました。食物連鎖を通じてセシウムが濃縮された結果、海底土とほぼ同等の汚染濃度になっています。
 これと同様のことが起こると考えれば、872ベクレルの汚染海底に生息する底生魚では、規制値を超える汚染が起こる可能性があります。今回、山崎教授が同時に行った魚介類の調査(おそらく10月の)では、検出限界値以下か多くても10ベクレル以下だったと書かれています。これについては、魚種と採取場所の詳細データは確認できませんでした。問題となっている付近には、カレイやハゼなどが生息しており、釣り人には人気のターゲットとなっています。
 今のところ規制値を超えるような汚染魚が見つかっていないと言っても、油断はできません。まだ河口部の汚染がホットスポット状であるため、移動する魚はまだ救われているのかもしれません。しかし、これから2年後のピークにかけてセシウム濃度が上昇するとともに平面的にも広がると考えられます。
 そうなると、河口部を生息域とするカレイなどへのセシウム汚染は避けられないのではないかと危惧されます。さらに、ハゼ、アナゴ、アイナメ、メバル、ボラ、スズキなどへも広がっていく可能性もあります。干潟に広がれば重要な漁業資源であるアサリにも影響するかもしれません。
 記事の中で、海水魚は100日でセシウムを排出するとの専門家のコメントがありましたが、これは誤解を与える言い方です。毎日セシウムを取込んでいればそのうち吸収量と排出量のが釣り合った平衡状態になってしまい、その濃度が維持されます。また、セシウムは泥に吸着して溶けにくくなるともコメントしていますが、ゴカイなどの低生生物はその泥自体を食べています。ミミズと同じように泥中の微生物や有機物を栄養にしています。ちなみに、福島県川内村で2万ベクレル超のミミズが出て問題になりましたが、そこの落ち葉が2万3千ベクレル、表土が1200ベクレルほどでしたから、海のミミズとも言えるゴカイでセシウムの移行が起こるのは当然と言えます。
 放射能汚染マップを見れば分かりますが、北関東の山間部や東葛地方に広がる放射能汚染地帯を流れた水のかなりの部分が、荒川や江戸川(利根川)を下って、最終的には東京湾に流れ込みます。今後、河川を流下するセシウム量や濃度、河川や海底の堆積物、海水や泥に含まれる濃度などはもちろん、低生生物や魚介類の採集調査を徹底的に行う必要があります。国もようやく調査を開始、4月以降本格的な調査をするとしています。
 汚染度の高い魚介類が見つかれば、釣りや潮干狩りなどのレジャーや、沿岸漁業に大きな影響が及ぶでしょう。東京湾は閉鎖性が強く、海水の入れ替わりが少ないので、放射能は太平洋のように拡散していきません。かなりの長期間にわたって影響が残るでしょう。今から,検査体制を充実させ、サンプル数を増やしたきめ細かいデータを示さないと、かえって風評被害を拡大することになります。
 近年、水質も良くなってきて豊かな海を取り戻しつつあったのに、原発事故のために江戸前の海が放射能で汚染されてしまいました。でも、福島はもっともっとひどい、ということを東京の人間は忘れてはいけません。

原発事故由来セシウム濃度 東京湾じわり上昇(東京新聞3/2)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012030290070441.html

東京湾泥にセシウム 風評怖い…検査強化(東京新聞3/2)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012030202000025.html

NHKスペシャル「シリーズ原発危機」知られざる放射能汚染~海からの緊急報告~
http://nanohana.me/?p=11200
注:動画はすぐに削除される恐れがあります

早川由紀夫教授の放射能汚染地図(六訂版3/2)
http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-473.html

3.10と3.11〜戦災と震災(日記)2012/03/09 19:58

 3.10から67年が経ちます。年老いた母は3.10をよく憶えています。昭和20年3月10日夜、北関東の足利からも南東の空が赤くなって見えたといいます。母の実家では、娘のいる足利市街が燃えているのではと心配したと言います。それほど空を赤く染めた火は、はるか離れた東京が燃えている赤い火、東京の大空襲の火だったのです。
 1945年3月10日未明、アメリカ軍のB-29爆撃機の大編隊が東京を襲い、下町を中心に焼夷弾を雨あられと落として、町を焼きつくし、なんと一晩で10万人もの市民が殺されました。これが「東京大空襲」です。10万人が死んでも、それは長い戦争の数多くの悲劇の中のほんの一部です。広島長崎の原爆でも30万人の市民が犠牲になりました。
 私は母に、日本人はどうしてアメリカを憎まないのだろうと聞きました。だって、鬼畜米英って叫んで闘っていたのでしょう?と。母は困ったように、戦争だからと言うだけでした。
 もし、自分の大切な人が戦争で死んだらどう思うだろう。何で死んだのか、誰のせいで死んだのか、そもそも死んだのではなくて殺されたのだ、なぜだ?って、きっと考えるだろうと思います。何十万人何百万人の犠牲者のまわりに渦巻いているはずのそんな恨みや思いはいったいどうなっているのだろう。私は、ずっと疑問に思っていました。
 日本では、このような悲惨な出来事を「戦災」と言っています。この言葉にはずっと引っかかっていました。人間の所業である戦争がまるで自然災害のようです。このような捉え方は責任を曖昧にします。結局、日本は戦争の責任を明らかにしないまま今日に至っています。

 3.11「東日本大震災」から1年が経ちます。3.10「東京大空襲」と67年と1日違い。まったく違う出来事のようですが、私は何か似通ったものを感じます。
 大地震と大津波は大自然の猛威です。しかし「原発事故」は天災ではありません。危険な原発を運転し事故を起こしたのはまさに人間の仕業であり人災です。自然災害としての「震災」と、人災としての「原発事故」は明確に分けて捉えなければいけません。
 ところが「震災」という言葉の中に十把一絡げにして「原発事故」と言わずに済ませる風潮があります。言葉による事故隠しが行われているように思います。「原子力災害」と言ったり、放射能汚染に苦しんでいるのに「震災の影響で」と言うようなことです。
 このままでは、あの戦争と同じことになるような気がします。戦争を戦災に言い換えて、戦争の責任を曖昧にしたまま、とにかく復興と突っ走って、ここまで来ました。日本は、生まれ変わったと思っていましたが、実は、何も変わっていなかったのかも知れません。今の日本は、原発事故の責任を曖昧にしたまま、とにかく復興だ「がんばろう日本!」と叫んで突っ走ろうとしています。
 戦争も原発も人間がやったことです。天から降ってきた災いではありません。人間の責任を明らかにしなければ、きっとまた同じことを繰り返します。それが日本の文化ではないと思いたい気持ちです。

3.11から1年、最大の危機は「忘却」2012/03/10 10:00

 最大の危機は「忘却」。原発の「冷却」ではなくて「忘却」。「冷温停止」ではなくて「思考停止」。忘れてしまう、考えない、それが私たち日本人の最大の危機です。
 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」日本人の無常観を言い表しています。ところが、今、
 「放射能の流れは絶えずして、しかももとにもどる。よどみに浮かぶ放射能は、消えず結びて、久しくとどまりたる。」それが私たち日本人に突きつけられている現実なのです。
 3.11から1年、原発危機はますます進行中です。放射能汚染は何世代にもわたって消えることはありません。そのことを、決して忘れず、常に考えつづけ、そして子孫のために行動することが、私たちの義務だと思います。

トラブル続き「韓国の原発」〜西風の恐怖2012/03/16 20:29

韓国からの放射能拡散シミュレーション
 もし、韓国で原発事故が起きれば日本は大きな影響を受けます。西風に乗って放射能が流れてくるからです。上の地図は、韓国の古里原発が大事故を起こした場合の放射能拡散をイメージしたものです。昨年3/15福島原発から放出された放射能拡散シミュレーション図を切り貼りしてみました。日本付近は偏西風帯に位置するため、年間を通して西風が主流となっています。福島の場合も本州東岸にあったため、ほとんどの放射能は太平洋に拡散していきました。しかし、日本海側や西日本の原発、はては韓国や中国の原発が事故を起こせば、日本全体に放射能が拡散してくる恐れがあります。
 実は、韓国は米、仏、日、露に次ぐ世界第5位の原発大国で、国内4ヶ所に21基の原子炉があります。すぐ隣の国にこれだけたくさんの原発があることをどう考えますか。韓国で日本にもっとも近い釜山市の郊外にある古里(コリ)原発、先月ここで「全電源喪失(ブラックアウト)」事故がありました。
 2/9、定期検査で停止中の古里原発1号機で、外部電源が遮断され停電、非常用発電機も起動せず、すべての電力が失われた状態、いわゆるステーション・ブラックアウトが12分間にわたって続きました。幸い、外部電源が復旧して事なきを得ましたが、万一事態が長引けば「福島原発事故」の悪夢が繰り返されるところでした。さらに、電力会社がこの事故を原子力安全委員会に報告せず1ヶ月も隠蔽していたことが問題になっています。

 そこで今回は、前から気になっていた韓国の原発事情についてまとめてみました。
 現在、韓国の原発には二つの世界1があります。それは「原発密度」と「原発稼働率」です。
 「原発密度」というのは国土の広さに対する原発の数です。韓国では、国土面積1万平方キロメートル当たりの原子炉が2.1基で世界1の密度です。日本でさえ1.4、フランス1.1、アメリカ0.1、ロシア0.02などと比べてかなり高密度ということが分かります。しかも、一ヶ所に複数集中立地しています。今後さらに、建設中7基、計画中6基を加え、2014年までに合計34基、原発密度3.4という超過密原発大国になろうとしています。世界的に見れば、日本と韓国という狭いエリアに、合わせて75基もの原発が集中しているという見方もできます。
 「原発稼働率」は原発の発電能力に対して実際に発電している割合です。韓国の原発稼働率はなんと95%!、世界1です。ちなみに3.11以前の日本では60%、フランスでも75%ほどです。韓国では20ヶ月連続運転して1ヶ月の定期点検というサイクルで運用しています。ですから、通常は点検停止中の原発は全国で1基のみ、あとはすべて運転中という、ほぼフル稼働の状態を続けています。
 面積密度と時間密度がともに高いので経済効率が非常に高いというのが韓国の原発の特徴です。これは、経済効率を最優先に思い切って原発推進政策を進めてきた結果です。
 このような高密度運転を続けて大丈夫なのでしょうか?実は、非常に危険で、これまでも大小さまざまなトラブルや故障を繰り返しています。今回の事故などもし電源が回復しなければ重大事故に発展する恐れがありました。
 3.11直後、李明博大統領は「韓国の原発は安全」と宣言していましたが、3.11以後だけみても、頻繁にトラブルを繰り返しています。
  4/12 古里1号機、スイッチ部品の破損で停止
  4/19 古里4号機、外部電源が1時間半遮断、非常用ディーゼル発電機作動
 6/21 古里2号機、送電トラブルで停止
 11月 蔚珍(ウルチン)原発4号機、伝熱細管3800本以上損傷見つかる(定検中)
 12月 古里原発に中古部品が使われていたことが判明、検察捜査
 12/13 蔚珍原発1号機、警報により停止
 12/14 古里3号機、過剰電圧発生のため自動停止
  1/12 月城(ウォルソン)原発1号機、冷却材ポンプの故障で自動停止
  2/9 古里1号機、12分間にわたり全電源喪失(定検中)
 たった1年の間でもこれだけたくさんのトラブルが起きています。特に、3.11以後は韓国でも原発に対する国民の不安が高まっています。
 日本がすべての原発を廃止しても、すぐ隣の韓国に21基の原発が並んでいれば、事故の恐怖はなくなりません。放射能に国境など関係ありません。こう考えると、東アジア全体で脱原発に向かっていかなければならないことが分かります。いや、世界全体で脱原発へ向かわないといけません。これは、ある意味、非核化と核廃絶への流れと同じだと思います。また、世界が協力するという点では、地球温暖化防止の取り組みとも同じではないでしょうか。

韓国の原発、全電源が一時途絶…1か月申告せず(読売新聞3/13)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20120313-OYT1T00703.htm

「福島より安全」?韓国古里原発の停電事故のショック(中央日報3/14)
http://japanese.joins.com/article/139/149139.html?servcode=400§code=430

「福島のウソ」を繰り返す韓国の原発(朝鮮日報社説3/15)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120315-00000838-chosun-kr