福島の子どもに甲状腺ガン!〜被曝との関係は?2013/02/20 21:41

ベラルーシの子どもの甲状腺ガンの数
 福島原発事故発生からもうすぐ2年が経とうとしています。2月13日、福島県県民健康管理調査検討委員会は県内の3万8千人の子どもについて行った「甲状腺検査」の結果(23年度分)を発表しました。それによると、現時点で10人が甲状腺ガンと診断され、うち3人は手術の結果甲状腺ガンと確定、7人については確定診断まではいっていない段階であることを明らかにしました。とうとう心配されていたことが現実になってしまったかと暗い気持ちになります。
 私は今回の結果を聞いて、すぐにチェルノブイリのことを思い浮かべました。事故後に現れた多くの病気や異常が不当にも被曝との関係を否定されたり立証できないでいる中、唯一世界の学者が一致して被曝との因果関係を認めてたのが甲状腺ガンです。日本でも「被曝による小児甲状腺ガンの増加」がついに始まったのでしょうか。だれもが心配していることですから、記者会見でも多くの質問が集中しました。鈴木真一教授や山下俊一座長らはプライバシーをタテに詳しいデータは一切示さず「被曝とは無関係」と言っています。今回はこのことについて考えます。
◆チェルノブイリ原発事故と甲状腺ガン
 上のグラフ、これはとても有名なデータですが、チェルノブイリ原発事故の前後10年間のベラルーシにおける小児甲状腺ガン(0〜14才)の発生数の推移を見て下さい。なお、ベラルーシの人口は1986年時点で大人も子どもも含めて996万人でした。

97 78 79 80 81 82 83 84 85年 合計
 2  2  0  0  1  1  0  0  1人 7人

86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97年 合計
 2  4  5  7 29 59 66 79 82 91 84 66  574人

 見て分かる通り、事故前の9年間には合計して7例しか記録されていません。ここから年間0〜2人というのがベラルーシの子どもたちの自然発生的な甲状腺ガン発生数と考えられます。統計では10万人当たり年間0.1人で世界的にも標準的な値でした。ところが事故直後から上昇を始め、4年目以降急増しています。事故から10年後の1995年にピークに達し90人を記録、発生率は10万人当たり4人で世界的平均の40倍という高率です。その後減少に転じましたが、これは被曝時の子どもが大人世代に達しているためです。事実大人世代のガンは今でも増え続けています。
 ベラルーシでは事故翌年の87年にすでに年間4件が発生しています。0〜2人が4人になっただけとも言えるし、2倍以上になったとも言えます。この程度は誤差や通常変動の範囲内で統計学的には有意とはいえないのかもしれません。しかし、事故前9年間の統計では毎年0か1か2人しかいなかった、それが4になった、しかも次が5、その次は7、そして・・・ですから、少なくともこの変化には意味があります。
◆福島の発生率は10万人当たり7.9〜26.2人に!
 今回福島県でみつかった甲状腺ガンは、検査結果の出た38,114人に対して確定3人、診断数では10人ですから、単純計算すれば10万人当たり7.9〜26.2人という発生率になります。これは従来の疫学統計からみたら世界平均の100倍以上の極めて高い値です。ベラルーシよりも高いのです。検討委員会の鈴木氏や山下座長は「世界で初めての大掛かりな精密検査を実施したため、従来発見できなかったガンを見つけたので高率となった」と説明しています。確かに無自覚無症状の潜在的なガンの場合、これまでは発見されることはなかったかもしれません。
 しかし、これについては「対照群」の調査を行えばはっきりします。つまり、原発事故の影響を受けていない地域の子どもたちにまったく同様の甲状腺検査を実施すれば良いのです。すでに昨年から環境省が青森県、山梨県、長崎県で計4500人の子どもで調査を行っています。その結果は3月に発表されます。ただ、4500人では少なすぎるのではないでしょうか。なぜなら、これではたった1人でも甲状腺ガンが発見されれば、計算上は10万人当たり22人で福島と同じレベルになってしまいます。これまでの常識から言えば一人も見つからない可能性の方が大きいのですが、0だったら統計的な比較は困難ではないでしょうか。最低でも福島と同数程度は調査すべきだと思います。いずれにしても今回の調査がベースになりますのでとても重要です。
 今後、来年再来年と調査を続けていく中で、変化があるか、どう変わるか、これから長い期間調査が続くことになります。でも、10年も経ってから分かっても遅いことがあります。疫学統計ではなく、一人一人の子どもたちの命と健康のことです。
◆今回見つかった甲状腺ガンと被曝との関係は?
 記者会見で鈴木真一教授は原発事故との因果関係を否定しました。「チェルノブイリで甲状腺ガン発症が増加したのは、原発事故後4〜5年経ってから。元々あったものを発見した可能­性­が高い。」というのがその理由です。
 これは、先ほどのベラルーシのデータで、事故4年後に29人に急増したところをさしているものと思われます。しかし、ここで言えるのは「4年目以後の増加で事故の影響が否定できなくなった」ということなのです。しかも、現在では多くの学者が事故後の増加部分を事故の影響と評価していますので、直後の増加分も事故の影響と見るしかありません。ですから、ごく単純に言えば、2年目の4人のうち2人は事故の影響かもしれません。
 「こんなに早くガンができるはずがない」というのが専門家の見方なのかもしれませんが、被曝による確率的影響で起こる発ガンまでの潜伏期の長さは被曝量に関係することが分かっています。つまり、被曝量が大きいと通常知られているより早く発ガンする可能性があるということです。
 今回ガンまたはガンの疑いと診断された子どもたちに関しては、男子3人女子7人平均年齢が15才ということ以外、地域も推定被曝量も公表されていません。記者会見でもここに質問が集中していましたが、プライバシー保護と統計学的に評価できる段階にないとの理由で公表できないの一点張りです。この姿勢には大きな疑問を感じます。一握りの”専門家”が全てのデータを独占して良いか悪いか判断するやり方は危険です。かつてABCC(原爆傷害調査委員会)が原爆被曝者に関する調査データを独占したやり方と共通したものを感じます。
 話が戻りますが、ベラルーシで87年に甲状腺ガンとされた4人の子どもには放射線の影響があった可能性があります。確率は五分五分ということでしょうか。90年のように29人までになれば9割以上の確率といえます。しかし、どの場合でも個々の子どもが放射線誘発ガンかどうかを直接的に「証明」することは困難です。推定被曝量が大きいほど可能性が高いとするしかないでしょう。発ガンの原因は確率論的に言うしかないということです。
 それでは「福島県で今回見つかった甲状腺ガンと被曝との関係は?」どうなのでしょう。チェルノブイリの知見に照らせば「被曝の影響を否定できない」と見るのが現時点ではもっとも常識的な判断ではないでしょうか。調査検討委員会は、そのことをもっとはっきり言うべきです。今の姿勢は不安を与えまいとするあまりの過小評価とデータ隠しのように見えます。
◆もし自分の子だったら?
 あの時そこにいて被曝した(させられた)事実がある以上、後でどんな病気に罹っても、それが原因じゃないかと疑うでしょう。その不安は一生消えないかもしれません。小児甲状腺ガンという珍しい病気に罹ったらこれは被曝のせいじゃないかと考えるのは当然のことです。ちゃんと治してあげること同時に、何の罪もない子どもを傷つけた責任をあきらかにしなければなりません。それが親の責任だし大人としての責任ではないかと思います。今回の子どもたちは通常診療に移されて手術治療を受けていると言います。ということは、通常の健康保険で医療を受けているわけです。通常診療というのはどこか変です。福島県は昨年10月から18才未満の子どもの医療費を公費負担で無料化しましたので、実質自己負担はゼロになりますが、釈然としません。加害者がいるのですから、まず加害者である東電が補償すべきではないでしょうか。
 さらに、親としては子どもの将来が気になります。心配なのは甲状腺ガンだけではありません。そんな不安を一生抱えなければならないなんて、きっとやりきれないことでしょう。原発さえなければこんな思いをせずにすんだのにと、悔やんでも悔やみきれないと思います。
◆実際にどう救済すべきか
 具体的には、東電と国の責任を明確にして損害賠償や将来にわたる救済と支援を行っていくことしかありません。以前にも書きましたが、被曝の影響は集団レベルでは証明できても個人レベルでの証明はきわめて困難です。集団レベルの証明でも統計を使いますので長い時間がかかります。個々の人間の発ガンの原因を特定し証明することはきわめて困難です。これははっきり言って「科学」の限界です。結局は、影響の認められる集団に属するかどうかで判定するしかないということです。つまり、被曝者としての認定という社会制度的な対応になっていかざるを得ないのではと思います。残念ながら今の東電にも国にもそんなつもりは毛頭ありません。何しろ責任を認めてないのですから。そこを明らかにするところから、出発するしかなさそうです。

参考資料: チェルノブイリ事故による放射能災害国際共同研究報告書(1998)


第10回福島県健康管理調査 記者会見(37分)

「甲状腺検査」の実施状況及び検査結果等について(県民健康調査検討委員会)

チェルノブイリ原発事故後の健康問題(山下俊一)山下教授自身によるチェルノブイリの認識

チェリャビンスクの隕石落下~落ちるところが悪ければ・・・原発・再処理工場直撃で地球規模の核惨事2013/02/18 19:03

隕石落下地点と核施設の位置
 2月15日、ロシア南部ウラル地方のチェリャビンスク州付近に隕石が落下しました。空を横切るまばゆい光と雲、すさまじい爆発音、建物や窓ガラスが吹き飛ぶ様子、怪我をした人々、湖の氷にあいた大きな穴・・・そんな映像が世界を駆け巡っています。落下と爆発の瞬間が映像記録されたのはおそらく初めてのことでしょう。NASAの発表によると隕石は直径17m重さ1万トン、秒速18kmで大気圏に突入後大気との摩擦熱で高温火球となり上空15から25kmで爆発したものとみられています。爆発のエネルギーは広島原爆の30倍以上で、もし爆発せずに地表まで落下したら直径100mのクレーターができるほどです。
 さて、この「ウラルのチェリャビンスク」という地名には聞き覚えがありました。それは「ウラルの核惨事」があった所です。1957年、当時ソ連の核再処理工場(プルトニウム生産施設)で、高レベル放射性廃液タンクが崩壊熱のため大爆発を起こして大量の放射性物質が大気中にばら撒かれるという大事故が起こりました。多くの周辺住民が放射能雲にさらされ被曝し、今なお続く深刻な放射能汚染と健康被害を残しました。その場所が「チェリャビンスク-65」という軍事閉鎖都市です。冷戦時代の事故なので今もって真相がはっきりしていませんが、国際原子力事故尺度ではレベル6とされています。この「チェリャビンスク-65」は現在もマヤーク原子力プラントとして使用済み核燃料や核兵器の処理を行なっています。
 天から降ってきた偶然と人間の所業がもしも鉢合わせしたら・・・今回チェリャビンスクに落ちてきた隕石から、そんなことを考えてしまいました。もしも、空中爆発せず地表まで落下し、そこに再処理工場があったら?!ということです。マヤークには過去60年間にわたるさまざまな放射性廃棄物や使用済み核燃料が大量に保管されています。抽出され保管されているプルトニウムは30トン(1999年)もあります。こんなところが隕石直撃を受けたら、一瞬にして大量の死の灰が蒸発飛散して大気圏内上空に広がり大気の流れによって全世界に拡散するでしょう。日本にはジェット気流のためにすぐに拡散してきます。原発一個でもその中身(死の灰)が出たら甚大な被害が出るということはみんな知っています。再処理工場に存在する放射性物質(死の灰)の量は原発の比ではありません。まさに想像を絶する地球レベルの放射能汚染になることは必至です。
 隕石落下、それはまさしく天災です。今回のような隕石落下は100年に一度の確率と言われていますが、巨大地震と同じように長い地球の歴史の中ではありふれたことです。1908年のツングースカ大爆発(シベリア)は、直径60~100m重さ10万トンの隕石の空中爆発によるものです。アリゾナにあるバリンジャー・クレーターは直径1.5kmもある巨大な穴ですが、これは5万年前に落ちてきた直径20~30m重さ1億7500万トンの隕石が作ったものです。日本でも長野県飯田市に御池山クレーターという直径900mほどのクレーター跡が発見されています。もちろん日本では風化侵食が激しいのでちょっと見にはわかりませんが、これは2~3万年前に直径40~50mの隕石が落下した跡です。まさに数え上げればきりがありません。
 計算上は、ある場所を隕石が直撃する確率は極めて低いかもしれません。しかしゼロではありません。日本では地震に関しては発生確率を計算していますが、隕石落下までは想定していません。原発の新安全基準では活断層の活動性判断基準を13万年前から40万年前まで拡大されることになっています。それくらいのタイムスケールの中に寿命40年の原発をおいて考えなくてはならないわけですから、隕石落下の可能性も無視できないのではないでしょうか。このたび1000年に一度の確率の巨大地震が起こって巨大津波が発生して原発事故が起こりました。「きわめて低い確率のことまで想定する必要はない」として想定外にしていたことが現実に起こったのです。隕石の落下も想定したら、安全対策などできますか?それが不可能なくらい誰にでもわかります。「天罰」が下る前に原子力から足を洗わなければ本当に人類と地球の未来が危うい。

 余談:映画「アルマゲドン」では、地球に接近する小惑星を決死隊の自爆核攻撃で破壊し地球を救ったという話です。これもアメリカが言う核の平和利用なのでしょうか。それより先に核で自ら破滅する確率のほうがよっぽど高いと思います。どうも最近何でもひねくれた見方をしてしまいます。

閃光とともに・・・ロシアに隕石落下 500人以上けが(13/02/15)(youtube)

隠された半世紀・ウラルの核汚染(森住卓ホームページ)

井戸川町長退任の挨拶2013/01/24 23:28

 全村避難をしている福島県双葉町の井戸川町長が退任することになりました。町議会から突然の不信任を突きつけられ、議会解散、そして無投票で議会が再選されるという流れの中で「限界を感じた」として辞職を決意したということです。これまで国の安易な除染&帰還政策に異論を唱え、「福島県内の多くの場所は、今なお人が住んではいけない汚染状況にある」と訴え続けていました。国に抵抗する町長を引きずり下ろそうとする何らかの背後の力が働いたのではと勘ぐりたくなります。双葉町のホームページに町長の退任挨拶が掲載されています。リンクでなくあえて全文転載してご紹介したいと思います。

以下双葉町ホームページより転載

双葉町は永遠に
 私たちは前例の無い避難という過酷な状況に置かれています。いつまでも海原を漂流するわけにはいきません。早く上陸地を国が準備して、再興できる日を求めてきました。しかし、時間が足りませんでした。
 放射能のないところで平和な、皆が集える町ができることを祈り町民の安寧を願って、私は本日、双葉町長の辞職申し出をしました。
 私の今までの取り組みから次のことを申し上げたいと存じます。

1 事故に負けない
 原発事故で負けるということは、今のまま、何もしないことである。
 双葉町民には負けてほしくない。勝ってそれぞれ生き抜いてもらいたい。今はそれぞれの地に離れて住もうとも、廃炉が完了して故郷から放射能の危険が去り、自然と共生出来るようになったら再結集しよう。
 我が子どもたちへ、この悔しさを忘れることなく、何としても生き抜いて何倍も幸せな双葉町を再建していただきたい。そのためにも負けないで学び、求められる人になれ。世界の雄になってもらいたい。
(1) 負けないということは以下のことを忘れないこと
①避難してくださいと国から頼まれたこと。
②東電と国は事故を絶対起こさないと言っていたこと。
③町と県と東電には安全協定があること。
④事故は我々が起こしたものではないこと。
⑤正式な謝罪と見舞いがないこと。(形のあるものではないこと)
⑥自分の権利は自分以外に行使できないこと。
⑦被ばくさせられたこと。
⑧放射能の片付けをさせられること。
⑨20msv/yで町へ帰ること。(一般公衆の限度は1msv/y以下)
(2) 勝つためには何をしなければならないか
①事故の原因者を確定すること。
②我々の受けた損害のメニュー作成すること。
③損害の積算をすること。
④回復の請求をすること。
⑤回復の限界と代替を請求すること。(仮の町、借りの町)
⑥立証責任の不存在を共有すること。
⑦気づくこと。
⑧水俣の住民の苦難を学ぶこと。
⑨広島・長崎の住民の方に聞くこと。
⑩避難先の皆さんの恩を忘れないこと。
⑪多くの町民が健全な遺伝子を保つこと。
⑫ウクライナの現実を確認して同じテツを踏まないこと。
(3) 町民の力を結集すること
①役割分担をすること。
 ・汚染調査 ・除染問題 ・賠償問題
 ・住居問題 ・職場問題 ・健康問題
 ・墓地問題 ・学校問題 ・中間貯蔵施設問題
 などの調査研究する組織をつくり町民の不利益を解消すること。
②事故調査委員会をつくること
 事故の報告書には避難を強制された住民の実態が語られていない。外部に任せていたらいい加減に処理されてしまうので、委員会を町独自に構成して正しい記録を残さなければならない。
2 主張する権利を行使する
①見守り隊の組織
②法律家の組織
③文書学事の組織
④ボランティア活動組織
⑤被ばく被害者団体の組織
などを組織して国民の主権と被害者の復権を勝ち取らなければならない。
3 この世には先人の教えがある
(1) 温故知新
 歴史から新しい発想が出てくる。自分が直面している問題について語られています。遠くは私たちの祖先である標葉藩が相馬に滅ぼされたこと、会津藩が長州に負けたこと。しかし、負けても滅びる事もなく私たちは生きてきました。先人達に感謝し、これからは私たちが町の存続を引き継ぎ後世に繋がなければなりません。今度の事故は前例がありません。今は子どもたちを放射能の影響によるDNAの損傷を避けて暮らし、幾多の困難に負けずに 双葉町の再興に向かって、生き延びましょう。
(2) 人生に五計あり
 中国、宋時代の朱新仲が教訓として伝えた人生の処世訓とされるものです。生計、身計、家計、老計、終計があり、生き抜く考えが記されています。
(3) 八正道と言う道
 昔、釈迦がインドで行われていた求道について、新しい道があることを説いたとされています。
正見  : 正しい物の見方
正思惟 : 正しい思考
正語  : 偽りのない言葉
正業  : 正しい行為
正命  : 正しい職業
正精進 : 正しい努力
正念  : 正しい集中力
正定  : 正しい精神統一

 今の私たちにはこのような精神にはなれません。この言葉は東電と国あるいはこの事故を被害者の人権を無視して矮小化しようとしている勢力に猛省を促す言葉として捉えてほしい。願わくば、双葉町の子どもたちに人生の教訓の一部として、心に刻んでほしい。

 この事故で学んだことは多い。我国でも人命軽視をするのだと言うことがわかった。国は避難指示と言う宣戦布告を私たちに出した。武器も、手段も、権限もない我々はどうして戦えるだろうか。

 白河市にアウシュヴィッツ博物館がある。ナチスがユダヤ人を毒ガスで虐殺したことは衆目の事実だ。福島県内では放射能という毒で県民のDNAを痛めつけている。後先が逆だ。この状態から一刻も早く避難をさせること以外に、健康の保証は無い。その後に十分時間をかけて除染をやれば良い。
 人工放射能に安全の基準を言う実績が少ない。20msv/yで住めると言う人が家族と一緒に住んで示すことが先だろう。その安全が確認出来たら福島県民は戻ればいい。これ以上モルモットにするのは、外国の暴君が国民にミサイルを撃つのと変わり無い。
 福島の復興なくして日本の再生はないとは、人口減少の今、将来の担い手を痛めつけていては、真に福島の復興には繋がらないと心配している県民は少なくないと思う。双葉町は原発を誘致して町に住めなくされた。原発関連の交付金で造った物はすべて町に置いてきました。

 原発の誘致は町だけで出来ない、県が大きく関わってはじめて可能となる。私たちは全国の人たちから、「お前たちが原発を誘致しておいて被害者面するな」という批判を受けている。私たちはどこにいても本当の居場所がない今、苦悩に負けそうになりながら必死に生きている。子どもたち、高齢者、家計を支えなければならないお父さん、お母さんたちの悲鳴を最初に菅総理に訴えた。変わらなかった。そのために私は野田総理に国民としての待遇を訴えたのです。しかし、今の町民の皆さんは限界を超えています。何とか国には町民の窮状を訴え、町民には叱られ役をやり、マスコミに出されるようにしてきました。

 県にも窮状を訴えています。最近も質問をしました。回答は具体的な内容ではなく失望しました。知事は福島の復興のために双葉町に中間貯蔵施設を造れと言うので、双葉町の復興はどうするのですか、と聞くと答えてくれません。そこで、踏み込んで私に町をくださいと言いましたがやはり答えませんでした。これでは話し合いになりません。

 環境省の局長にどうして双葉に二つの場所を決めたのですかと聞いたら、分かりませんと言いました。では会議録をみせてくださいと聞いたら、後日ありませんと言う返事でした。このようなことで、調査だけで建設はしないからと言われて、ハイいいですよとは言えません。
 町には古くから先人が築いてきた歴史や資産があります。歴史を理解していない人に中間貯蔵施設を造れとは言われたくありません。町民の皆さんが十分議論した後に方向を決めていただきたい。若い人に決めてもらうようにしてほしい。

 今まで支えていただきました町民の皆様、双葉地方各町村をはじめ福島県内各市町村の皆様、国及び福島県そして事故発生時から避難救済にご支援いただきました国民の皆様、国会議員の皆様、全国の自治体の皆様、埼玉県と埼玉県議会の皆様、県民の皆様、加須市と加須市議会の皆様、市民の皆様、さくら市の皆様、医療界の皆様、福祉関係の皆様、貴重な情報の提供された方、最後に国内並びに世界中からボランティアのご支援をいただきました皆様、この避難を契機にご支援いただきました多くの皆様に支えられて、ここまで来ることができました。心から感謝を申し上げまして、退任のご挨拶に代えさせていただきます。
 長い間誠にありがとうございました。
 
 平成25年1月23日
双葉町長 井戸川 克隆

出典: 双葉町HP町長メッセージ

<付記1>町議選には定員8人に9人が立候補して選挙が行われることになりました。(1/24)

<付記2> 双葉町の井戸川町長、「辞任の真意」を語る
辞職表明翌日の井戸川町長へのインタビューです。(OurPlanetTV、1/24)

北海道「大停電」と「原発」〜こじつけ電力危機2012/11/30 18:26

倒れた送電線鉄塔(北電HPより)
 11月27日に北海道を襲った暴風雪の影響で長時間にわたる停電事故が起きています。この事故は中央のメディアでも連日取り上げられ、あたかも大停電のような大騒ぎが続いています。産經新聞などでは「泊原発再稼働なしでは北海道の電力危機は続く」と総選挙を意識したこじつけ報道までされています。そこで今回はこの停電事故について考えてみたいと思います。
 北海道電力によると、11月27日室蘭市をはじめ胆振、日高管内などで最大約4万1千戸で停電が発生したのは、暴風雪で送電線が振動し、送電が自動停止したことが主な原因とみられるとしています。さらに道央と道南を結ぶ道南幹線も一時自動停止しましたが正午までに復旧しています。これらは着雪や着氷した送電線が強風のため上下に振動する”ギャロッピング現象”が起こったためと考えられます。異常振動発生により送電を停止すること自体は安全対策ですから、ある意味事故とまで言えません。しかし、今回は6万6千ボルト送電線(66k幌別線)の鉄塔1基が強風のため倒壊したり、強風による送電線の切断やショートも重なったため復旧に時間がかかり長時間に渡る停電となりました。
 27日午前3時過ぎから停電が発生、その日は最大で5万6千戸が停電しました。翌28日には多くが復旧して午前10時で1万1千戸になりましたが、昼頃再び停電が発生して4万2千戸が再び停電、そして午後には1万弱、同日夜までには約8千戸まで減りました。29日正午でも登別市で6800戸の停電が続いていましたが、今日30日昼までにようやく全てが復旧しました。最長で3日半の停電でした。
 最大で5万戸以上の停電が起きましたが、大部分は強風による送電停止で、その後すぐに復旧しています。1万戸弱が鉄塔倒壊による長時間送電停止の影響を受けて一部は避難したりしていましたが、そこばかり繰り返し報道されていました。
 問題は6万6千ボルトの高圧送電線鉄塔の倒壊ですが、これについては今後原因究明がされるでしょう。問題の鉄塔は44年前のもので相当老朽化しています。さらに高速道路を跨ぐように電線が張られているために隣の鉄塔までの距離が通常より離れていました。北電は設計強度以上の強風が吹いたとしていますが、設計強度が風速25mというのは頼りなさ過ぎです。今回の低気圧では最大瞬間風速30mという予報が出ていました。北海道では40年前に暴風雪のため50基の鉄塔が倒れて4日間停電する事故があり、それ以後に作られた鉄塔は強度が増しているといいます。しかし、老朽化した送電鉄塔は厳しい自然環境の中至る所に残っています。
 北海道は自然エネルギーの宝庫として期待されているのですが、そのネックとなっているのが送電網の脆弱さなのです。自然エネルギー発電を効率的に消費地に送電するネットワークがありません。今後巨額の投資が必要となるため北電は及び腰です。
 6万6千ボルトの送電ラインは基幹線には位置づけられていません。支線扱いなので放射状配線となっています。つまりどこかで切れるとその先には電気が送られなくなるのです。重要基幹線は基本的にループ配線なのでどこかが切れても、もう一方を伝わって電気が送られるようになっています。6万6千ボルト線も端末変電所間を繋ぐ重要ラインなのですからループ化できないのでしょうか。そうすれば全体がネットワークのようになり、より停電しにくいシステムになるはずです。
 今回、道央と道南を結ぶ道南幹線も一時停止しました。これは大動脈ですから、道央から道南への送電がストップして、道南つまり函館方面にかけての半島部全体が停電する可能性もありました。しかし、松前半島の知内火力発電所(70万kW)が稼働していたために南からの送電が維持され広域大停電を免れました。
 もしも泊原発がフル稼働してその代わりに火力が止まっていれば、広域大停電になった可能性もあります。巨大発電所で集中発送電するシステムは非常時には極めて弱いシステムです。重要な所を一カ所やられれば全体がやられます。中小規模の発電所をネットワークで繋ぎ消費に合わせて融通送電するシステムであれば、どこかがダウンしてもどこかに助けてもらうことができます。この方が災害時に強いはずです。一部のマスコミは泊原発の停止が停電リスクを高めているような「こじつけ」を展開していますが、まったく逆なのです。原発中央集権こそ停電リスクを高めているのです。たった25mの風で倒れるような足下の老朽鉄塔を放置して原発に多額の投資をしてきたツケではないでしょうか。
 余談ですが、過去日本で起きた主な「大停電」について紹介します。2005年12月新潟県で、最大で65万戸が停電、最長で30時間にわたる広域大停電が起きました。原因は今回と同じく暴風雪によるギャロッピング現象です。2006年8月には東京を中心に139万戸が停電した首都圏大停電が発生しています。これはクレーン船による27万ボルト送電線切断によるものです。幸い短時間で復旧しています。1987年7月にはさらに大規模な280万戸が停電する首都圏大停電がありました。このときは電力需要急増に対する東電の対処ミスが原因です。1965年には関西全域が停電したこともあります。これは御母衣水力発電所近くの送電鉄塔が台風により倒壊したことが原因でした。
 しかし、何と言っても最大の「大停電」は、2011年3月に東電が行った「計画停電」ではないでしょうか。予告輪番制ですが最大で1日1500万戸以上が停電になりました。直接的には地震による発電所の停止が原因ですが、東電は大口需給調整や緻密な需給予測を行わずに混乱に乗じて安易に停電を実施しました。この停電が人々に与えた心理的影響は大きなものでした。結果的に、それ以後「電力危機」と「原発危機」が相反し対立する意識となっています。
 今回の北海道の停電事故も格好の「電力危機」ネタにされています。しかも、総選挙というタイミングで無理矢理「原発停止による危機」にこじつけるマスコミや政治家が出て来て本当に困ったものです。

北海道電力の主な電力設備分布図(北電)

倒壊した鉄塔の位置図(北電)

暗闇の登別「泊原発なければ冬乗り切れぬ」北海道大規模停電ルポ(産経ニュース11/29)

再生エネ阻む貧弱送電網(朝日新聞6/14)途中まで