新たな神話づくり「放射能安全神話」〜読売社説2011/12/07 21:58

 12月4日の読売新聞に「放射線の影響〜冷静に健康リスクを考えたい」という社説が掲載されました。「100ミリシーベルトまでなら、統計的に健康影響は認められない」「喫煙は1000〜2000ミリシーベルトの被曝リスクに相当する、肥満は200〜500ミリシーベルト、野菜不足は100〜200ミリシーベルトだ」「放射能汚染を恐れて野菜を食べない選択をすれば、より大きな健康リスクを背負い込みかねない」などとして、「無用な不安が拡散し続ける状況を放置しておくべきではない」と主張しています。
 この社説は、内閣府に設けられた「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の議論を下敷きにしていますが、そもそもこのワーキンググループ(WG)に関しては様々な批判があります。低線量被曝の影響に対して否定的な考え方をもつ学者に偏った人選。閉ざされた議論。あらかじめ結論ありきのWGを批判して日弁連は見直しを求める会長声明まで出しています。
 100ミリシーベルト以下の被曝を低線量被曝としていますが、その影響については「これ以下なら影響がないという”しきい値”は存在せず、被曝量に比例した影響が存在する」というのがICRPをはじめとする国際的合意です。それは「直線しきい値なしモデル(LNTモデル)」と呼ばれています。読売の社説の通りとすれば、WGはこれも否定するのでしょうか。むしろ最近の研究では、このICRPのリスク評価でも過小評価過ぎると批判されています。ICRP勧告の10〜100倍のリスク評価をする研究者も存在します。
 はっきりしているのは「どの程度影響があるか明確にはわからない」ということです。科学的には「影響がない」と言った瞬間にそれはウソです。影響があるかどうかは、ずっと先になってやっと分かることなのです。今科学的に解明(証明)されていないからといって後に影響が現れる可能性がないとはいえません。児玉教授も言っています。「エビデンス(証拠)を待っていたのでは遅すぎる。チェルノブイリで子どもの甲状腺がんが被曝の影響だと証明されたのは事故から20年後だった。20年たって分かったってしょうがない!」日弁連でも、将来に禍根を残さないために予防原則に基づくリスク評価を求めています。
 喫煙や肥満などの日常的リスクを持ち出して、放射線被曝リスクをことさら小さく見せようとする言説が流布しています。これはある意味数字のトリックにすぎません。交通事故死に比べれば殺人や戦争で死ぬ確率は低いから大したことはないと言えますか。本人責任のまったくない赤ちゃんや子どもたちがリスクを押し付けられることはおかしくありませんか。
 原発事故により日本の「原発安全神話」は崩壊しました。ところが今、新たな神話が作られようとしています。それは「放射能安全神話」です。「放射線を多少浴びても影響ない」「放射能を多少食べても安全」・・・「多少」とか「その程度」とか、アイマイな物言いでゴマカシながら、放射能リスクをウヤムヤにする新たな「安全神話」の誕生です。「放射線の影響は、実はニコニコ笑ってる人には来ません」などと言った福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一・長崎大学教授などその張本人の一人です。文科省が10月に出した副読本をみても、それは「放射能安全教育」になっています。
 それにしても、さすが読売です。私は東京新聞に変えていましたので、気づくのが遅くなりました。なり振り構わず「原発推進路線」を突っ走る読売新聞。新たな神話の流布に一役買うつもりなのでしょうか。

放射線の影響 冷静に健康リスクを考えたい(12月4日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20111203-OYT1T00944.htm

「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の抜本的見直しを求める会長声明(日弁連)
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2011/111125.html

低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(内閣府)
http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/news_111110.html