アートで表現する「原発危機」2011/12/05 21:18

"fallout"
 「放射能が飛び散った結果を汚染図が表しているんだね。白い木が人間に見える。」こんな感想をもらって、自分でも、はっとしました。これは昨日まで埼玉県松伏町の田園ホールエローラで開かれていた美術展「CON展」に出品した私の作品。タイトルは"fallout"です。
 実際は白い木じゃなくて稲穂ですが、木でも森でもいい、命あるものたちを表そうと思いました。稲穂は私たち自身でもあるのですね。足もとには金属光沢を放つ粒々が散乱しています。それは1cm×1cmの円柱、核燃料ペレットを表しています。同時にそれは危険な“マネー”。そして稲穂の群れを取り囲むように散らばっているのは放射能汚染地図です。私たちの世界を包み込んでしまった放射能、それはこのようにデータとしてしか見えません。しかも、全体を理解することはとても困難なことです。そんな、今、私たちが置かれている状況を表現しようと思いました。でも、作品的にまだまだ弱いし、気持ちばかりが焦ってもどかしい思いでいっぱいです。
 同じ部屋にあった現代美術作家のナカムラ氏の作品は、もっとすごいものでした。一見、くつろいだリビング風、床に敷かれたカーペットの上にはテーブルとの向かい合ったふたつのクッションが置かれています。よく見るとテーブルクロスは松伏町の地図、そして地図に無数のピンが刺され、先端には色とりどりの蝶々が浮かんでいます。彼は線量計を持って松伏町中の放射線量を測り、放射線量別に色分けした蝶々をその地点に刺したのです。ものすごくきれいな作品ですが、そこの描かれたものは薄ら寒い現実。この作品は町の人たちに強烈に訴えかけていました。 こちらに作品の画像があります。
 今回、期せずして二人が原発問題を作品にしました。アートに限らず、みんながそれぞれ自分のやり方で、自分の気持ちを表現していけば良いのだと思います。それにしても、ペレットの模型は大変でした。100個作りましたが、撒いてみるとほんのちょっとですね。こんな訳でしばらくブログがお休みでした。

◆「CON展」は、松伏町やその近隣を生活の場としている様々なジャンルのアーティストたちが自主独立で運営し、「生活の場」のアート化を目指して毎年開催している美術展です。今回で16回目となります。詳しくは オフィシャルホームページをご覧ください。

アートで表現する「原発危機」−22011/12/06 23:55

 ナカムラ氏の作品です。リンクが見られない方のために、ここで紹介します。タイトルは"A layer of something covered my hometown"です。本人のコメントより「今回目指したのは、表現されている内容は怖いのに、全然それを感じさせない、あっけらかんと綺麗なディスプレイ。それは福島で見てきた、透明な秋の風景そのもの。」

新たな神話づくり「放射能安全神話」〜読売社説2011/12/07 21:58

 12月4日の読売新聞に「放射線の影響〜冷静に健康リスクを考えたい」という社説が掲載されました。「100ミリシーベルトまでなら、統計的に健康影響は認められない」「喫煙は1000〜2000ミリシーベルトの被曝リスクに相当する、肥満は200〜500ミリシーベルト、野菜不足は100〜200ミリシーベルトだ」「放射能汚染を恐れて野菜を食べない選択をすれば、より大きな健康リスクを背負い込みかねない」などとして、「無用な不安が拡散し続ける状況を放置しておくべきではない」と主張しています。
 この社説は、内閣府に設けられた「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の議論を下敷きにしていますが、そもそもこのワーキンググループ(WG)に関しては様々な批判があります。低線量被曝の影響に対して否定的な考え方をもつ学者に偏った人選。閉ざされた議論。あらかじめ結論ありきのWGを批判して日弁連は見直しを求める会長声明まで出しています。
 100ミリシーベルト以下の被曝を低線量被曝としていますが、その影響については「これ以下なら影響がないという”しきい値”は存在せず、被曝量に比例した影響が存在する」というのがICRPをはじめとする国際的合意です。それは「直線しきい値なしモデル(LNTモデル)」と呼ばれています。読売の社説の通りとすれば、WGはこれも否定するのでしょうか。むしろ最近の研究では、このICRPのリスク評価でも過小評価過ぎると批判されています。ICRP勧告の10〜100倍のリスク評価をする研究者も存在します。
 はっきりしているのは「どの程度影響があるか明確にはわからない」ということです。科学的には「影響がない」と言った瞬間にそれはウソです。影響があるかどうかは、ずっと先になってやっと分かることなのです。今科学的に解明(証明)されていないからといって後に影響が現れる可能性がないとはいえません。児玉教授も言っています。「エビデンス(証拠)を待っていたのでは遅すぎる。チェルノブイリで子どもの甲状腺がんが被曝の影響だと証明されたのは事故から20年後だった。20年たって分かったってしょうがない!」日弁連でも、将来に禍根を残さないために予防原則に基づくリスク評価を求めています。
 喫煙や肥満などの日常的リスクを持ち出して、放射線被曝リスクをことさら小さく見せようとする言説が流布しています。これはある意味数字のトリックにすぎません。交通事故死に比べれば殺人や戦争で死ぬ確率は低いから大したことはないと言えますか。本人責任のまったくない赤ちゃんや子どもたちがリスクを押し付けられることはおかしくありませんか。
 原発事故により日本の「原発安全神話」は崩壊しました。ところが今、新たな神話が作られようとしています。それは「放射能安全神話」です。「放射線を多少浴びても影響ない」「放射能を多少食べても安全」・・・「多少」とか「その程度」とか、アイマイな物言いでゴマカシながら、放射能リスクをウヤムヤにする新たな「安全神話」の誕生です。「放射線の影響は、実はニコニコ笑ってる人には来ません」などと言った福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一・長崎大学教授などその張本人の一人です。文科省が10月に出した副読本をみても、それは「放射能安全教育」になっています。
 それにしても、さすが読売です。私は東京新聞に変えていましたので、気づくのが遅くなりました。なり振り構わず「原発推進路線」を突っ走る読売新聞。新たな神話の流布に一役買うつもりなのでしょうか。

放射線の影響 冷静に健康リスクを考えたい(12月4日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20111203-OYT1T00944.htm

「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の抜本的見直しを求める会長声明(日弁連)
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2011/111125.html

低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(内閣府)
http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/news_111110.html

反原発メッセージソング「ヒューマン・エラー」2011/12/14 22:20

FRYING DUTCHMAN humanERROR
 「電気がなくても生きていけるけど、自然がなくなったら生きていけないだろ!」フライング・ダッチマンが歌う「ヒューマン・エラー」。17分間の長い歌ですが、ついつい最後まで聞き入ってしまいます。歌の力、言葉の力って、すごいです。
 12・3デモ&集会でも披露されたそうです。ネットではすでに相当拡散、YouTubeでは27万回も再生されています。今さらとも思いましたが、まだ聞いてない方のために紹介したいと思います。
 「脱」原発ではなく、明確に「反」原発というスタンス。17分間かけてきっぱり言いたいことを言い切ってくれた。よくぞ言ってくれた!と思える実に見事な歌です。これまでのようなパロディや比喩で原発を批判するのではなく、堂々と真正面から理路整然と「原発反対」を訴えるその姿勢に感動すら憶えます。「原発絶対反対!ただちに撤廃せよ!」のフレーズがスローガンではなく詩的に響いて終わります。いつまでも余韻が残っています。テレビやラジオでどんどん流れるといいですが、マスメディアでは無理でしょうか。
 オフィシャルウェブサイトに載っている彼ら自身のメッセージには原発の「げ」の字も出ていません。例えばこう書かれています。『末期的に腐敗しているシステムに飲み込まれている世の中に向けて怒りと愛を込めてのメッセージソング「Human Error」!!』彼らは、単に原発に反対しているだけではないのです。人類が進歩とひきかえに失ったものへ思いを馳せ、原発に象徴される「システム」を撃ち、そして「愛=LOVE」を回復しなければいけない!と歌っているのです。

FRYING DUTCHMAN humanERRORーYouTube
http://www.youtube.com/watch?v=ENBV0oUjvs0&feature=player_embedded
フライング・ダッチマン・オフィシャルサイト
http://fryingdutchman.jp/
シングルCD発売中〜 Amazonにて

やはり津波の前に壊れていた1号機〜保安院解析2011/12/15 06:23

再循環ライン(A)漏えい/漏えい面積0〜0.3平方cmのケース
 「地震によって配管に亀裂ができ冷却水が失われていた可能性がある」とする解析結果が出てきました。それも国側から。これまで「地震では壊れなかった。しかし、想定外の津波によって全電源を失って冷却不能となり、メルトダウンが起きた」というのが、東電と国の言い分です。国もその立場で全国の原発の緊急安全対策を行っています。ところが、今頃になってこれです。こんなことはすでに3月の時点で多くの専門家が指摘していたことです。この解析結果は非常に重要な意味を持っています。なぜなら、原発安全神話の完全崩壊を意味するからです。それなのに、あまりマスコミに取り上げられていないようです。不思議です。
 「福島第一原子力発電所1号機非常用復水器(IC)作動時の原子炉挙動解析」という報告書がそれです。作ったのは経産省所管の 独立行政法人原子力安全基盤機構、発表は12/9です。なお、同機構は全国の原発の安全検査を行う機関でもあります。
 「解析」というのは一種のシミュレーションです。原発事故というのは現場検証ができません。放射能のため現場に近づけないので実際に配管を調べることができるのは何十年も後のことです。そこで、記録されたデータを分析し「どんなことが起きればそのようなデータが出てくるのか」ということを様々なケースを想定してシミュレーションします。そして実際のデータとシミュレーション結果がぴったり合うケースが、最も「あやしい」ということになる訳です。
 「漏えい面積0.3平方cm以下の場合は原子炉圧力・原子炉水位の解析結果と実機データとに有意な差は無い」という解析結果が示されています。簡単に言えば「0.3平方cmの亀裂ができて水が漏れた」ことをデータは示しているということです。0.3平方cmといえば、例えば幅1mmで長さ3cmというような小さな亀裂ですが、こんな小さな亀裂からも漏えいは、毎時7.2トン(毎秒2リットル)と見積もられています。漏れた場所はAB2系統ある再循環系ラインのA系のどこかと想定しています。
 1号機ではスクラム(地震による緊急停止)から6分後に非常用復水器(IC)が自動起動しています。これはスクラム直後に主蒸気隔離弁が閉じて原子炉内の圧力が上昇したため、蒸気を非常用復水器に回して冷やすことによって圧力を下げるために起動しました。ところが、この後の圧力の下がり方があまりに急激でした。わずが10分間で72気圧から46気圧までいっきに26気圧も低下しています。通常ならICを作動し続ける状況にもかかわらず、運転員がわざわざ手動でICを止めました。この操作が大きなナゾでと言われています。その後20分くらいの間に手動で起動停止の操作が3回繰り返されています。そして津波襲来、全電源喪失に至り、ICが停止したまま次第に圧力が上がり、ついに主蒸気逃がし安全弁が開いて蒸気が抜け始めました。水素も出てきます。ついに水がなくなってメルトダウン。さらに水素爆発。メルトスルー・・・
 非常用復水器(IC)の停止操作はなぜか?ICは原子炉を冷却する最後の手段だったのになぜ止めたのでしょう。田中三彦氏は運転員は地震による配管損傷で圧が抜けたと判断したのだろうと推測しています。また、小出裕章氏は(IC起動後の急減圧から)IC回路系配管の損傷を疑ってそれ以上の冷却水喪失を防ぐため止めたのだろうと推測しています。どちらにしても、冷却水が漏れていることを疑って命綱であるICを止めたと見ているのです。これに対して、東電は「運転員が原子炉の破損で放射性物質が屋外に放出されるのを恐れて一時手動停止させた」と最新の報告で言っています。しかし、この説明はスジが通っていません。冷却しなければ原子炉が破損するのですから。そして、いまだに地震による配管損傷をかたくなに否定し続けています。
 今回の地震の揺れは1号機では耐震設計の想定基準内のものでした。その程度の揺れで配管が損傷して冷却材が失われるようでは、耐震設計基準や安全審査をすべて見直さなければなりません。それにもとづくストレステストも全部やり直しです。安全審査の前提が崩れてしまったのだから、日本のすべての原発をただちに停止しなければなりません。そうなることが分かっているから、東電も国も「津波原因説」ですべてを片付けたいのです。
 東電のこの姿勢は、物証があげられないことや司直による検証や事情聴取が行われないことを見越して、タカをくくり開き直っているようにも見えます。どう考えても不思議です。これだけ社会に損害を与える大事故を起こしながら、家宅捜索も現場検証も事情聴取もなんにもないなんて。不思議で不思議で仕方ありません。

福島1号機配管 地震で亀裂の可能性(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011121502000029.html

これが解析結果、40ページあります。
福島第一原子力発電所1号機非常用復水器(IC)作動時の原子炉挙動解析(原子力安全基盤機構)
http://www.nisa.meti.go.jp/shingikai/800/25/005/231209-3-2.pdf