事故前の190倍!〜福島の食事1人1日4ベクレル2012/01/19 23:04

1人1日の食事に含まれる放射性セシウムの経年変化
 1/19の朝日新聞にびっくり。なんと1面トップに「福島の食事1日4ベクレル」の大見出し、「内部被曝、国基準の1/40」「自然放射線よりはるかに低い量」と見出しが続いています。日常の食事に「4ベクレル」の放射性セシウムが入っていることが、たいした心配はいらないとでも言いたいような記事です。とても違和感を感じましたので、この数値を別の面から考えてみました。
 上のグラフは、同新聞36面の解説記事「60年代も高い数値、米ソ中の核実験影響」に載っていたグラフを加工して作ったものです。文科省は1963年から2008年まで日常食(1人1日当たり)に含まれる放射性セシウムを測定していました。下の方の赤い点々がそれです。黒の折れ線はその中央値を結んであります。その値は63年に2.03ベクレル、その後大気圏内核実験禁止で減り続け、86年のチェルノブイリ原発事故でいったん増加、さらにその後減り続け08年には0.021ベクレルにまで低下していました。
 朝日新聞のグラフでは、そこに今回の測定中央値を青線で載せただけです。実は、過去のグラフは棒グラフではなく測定値をプロットしたものです。高い値がポツポツと離れているのが分かります。厳密には測定方法が違いますが、本来、測定値をプロットしなければ比較できません。そこで、右端に今回のデータを並べました。値が高過ぎて縦軸を5倍延ばさなければ入りませんでした。この右端に縦に並んだデータの中央値が 4.01ベクレルなのです。
 「 4.01ベクレル 」という数字は、事故前の 0.021ベクレルの、「 191倍 」です。過去最大の63年の中央値 2.03の2倍、同年の最大値と同程度です。関東でも、事故前の17倍となっています。今回測定のうち10家族は、これまでの日本で記録されたことのない高いレベルなのです。今回最大の 17.3ベクレルは事故前中央値のなんと 800倍以上です。今回の原発事故とその後の状況がいかに異常であるかよく分かります。
 毎日4ベクレルを食べ続けると1年半後には600ベクレルの体内蓄積量で平衡状態に達します。人間の体にはもともと自然放射性物質のカリウム40が成人で約4000ベクレル存在していますから、合計4600ベクレルになります。被曝量が15%増えるということは単純にリスクも15%増えることになります。よく自然放射線被曝より少ないから大丈夫などと言う話を耳にしますが、それは間違っています。自然放射線は減らすことができないので、セシウムなどの人工放射線被曝はすべてそこに上乗せされていきます。放射線は被曝量に比例した影響を与えるという法則からいえば、どんなに少しでも確実に影響(リスク)は増えていきます。もともと発ガンには自然放射線の影響もあるはずですが、それはいわゆるバックグラウンドとなっているので見えないだけです。
 この朝日の1面には「自然放射線よりはるかに低い値」という専門家のコメントまで載っています。コメントしているのは、甲斐倫明大分県立看護科学大学教授ですが、この人は ICRPの委員をいています。最近、ICRPの中立性や科学性に数々の疑問が示されています。「放射線防護」とはいうものの内実は「放射線利用」を進めるための組織であることは誰でも知っています。被曝リスク、特に内部被曝のリスクを政治的経済的に過小評価しているとも言われています。
 放射性セシウムは自然界には存在しません。人類が原爆&原発で作り出した物質です。人類はたかだかこの60年ほどで放射性セシウムを体内に持つようになったのです。その影響はまだよく分かっていません。いや、チェルノブイリ膀胱炎や前ガン症状のデータなどかなり明らかになってきています。
 それにしても、ひどい汚染の中にいると「4ベクレル」という数字がとても小さく見えてしまいますが、それは錯覚です。私たちは、ついこの前までの汚れていなかったきれいな世界の目を持って今の現実を見なければいけません。朝日新聞もこの期に及んでまだ国やICRPの物差しを使って同じ土俵で語るようでは本当に情けありません。あるいは、放射能安全神話の片棒を担ごうとしているのか、はたまた、原発再稼働へ向けた地ならしでも始めたのかと、勘ぐりたくもなります。

福島の食事、1日4ベクレル 被曝、国基準の40分の1(朝日新聞)1面記事の一部
http://www.asahi.com/national/update/0118/TKY201201180799.html