「最悪のシナリオ」はまだ終わらない2012/01/27 08:13

封印されていた「最悪のシナリオ」表紙
 事故直後に政府が想定しこれまで隠されていた「最悪のシナリオ」が最近明るみに出ました。 「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」原子力委員会近藤駿介(平成23年3月25日)というものです。マスコミの論調では「政府が隠した」という点が特に強調されていますが、私はマスコミのこの姿勢に違和感を感じます。基本的に、国も東電も都合の悪い情報をできるだけ隠そうとします。それを暴くのがマスコミの役目ではないでしょうか。いままでその役割も放棄して大本営発表を続けてきたマスコミが今頃何を言っているのかとあきれます。当時を思い出すと、テレビや大新聞は”専門家”を動員してそれぞれ事故の想定シナリオを報道していましたが、はっきり言って「控えめな」想定シナリオばかりでした。しかも、ネット等で流れている情報をデマだとか危機を煽るものとして「冷静に」なるよう呼びかけたりしていました。当時マスコミは政府と一体になって「最悪シナリオ」を隠した共犯者でもあります。自分のことを棚に上げての政権批判、あいかわらずの”菅”批判という分かりやすい構図に話を持っていこうとしているようです。
 さて、前置きはこのくらいにします。この「最悪のシナリオ」で一番重要なのは、もちろんその中身です。マスコミは「最悪・・・だった」と過去形で伝えていますが、実はこのシナリオは今でも生きているからです。未だにマスコミはもっとも重要な点をはっきり言いません。意図的にボカしているのか、はたまたボケているかはわかりませんが。それは「4号機プールにおける燃料破損」というシナリオです。その結果が、170km以遠にも及ぶ強制移住地域、250km以遠にも及ぶ任意移住地域の発生(チェルノブイリ事故後の基準に準拠)というものです。
 3/25当時の政府の「最悪シナリオ」は、①格納容器が水素爆発によって破壊、②追加放射能放出によって総員退去、③無人化した原発で冷却不能になる、④4号機プールで燃料破損により放射能大量放出、⑤他号機プールでも放射能放出、⑥強制移住170km圏、任意移住250km圏に及ぶ汚染が数十年続く・・・というものです。当時から4号機核燃料プールが最大の問題だったことが分かります。
 なぜ4号機プールが問題なのでしょう。まず第一に、4号機燃料プールには膨大な核燃料が保管されています。事故当時、定期点検中であったため、使用済み核燃料と使用中の核燃料あわせて原子炉2つ分以上の1535体の燃料集合体があります。これは、メルトダウンした1〜3号機の原子炉内の燃料よりも多いのです。1〜3号機の装荷燃料集合体は1496体です。この他に1〜3号機プールに保管された燃料が合計で1393体あります。単独では突出した量が存在しているのです。放出放射能の量は最終的には存在する放射性物質の量で決まる訳ですから、まずその量が問題なのです。
 第2の問題は、建屋が吹き飛んでしまった現在、プールはまったくオープンに外界と接しているということです。高温状態だった頃はまさしく地獄谷温泉か露天風呂のようでした。1〜3号機では曲がりなりにもまだ格納容器が存在しています。たとえ燃料が溶融してもそのままそっくり大気に放出される訳ではありません。じわじわと漏れてきます。ところが、プール燃料が溶融したらそっくりそのまま大気に放射能が放出されます。「最悪のシナリオ」では「溶融燃料がコンクリートと反応してコアコンクリート相互作用を起こして大量の放射性物質の放出が起こる」と想定しています。
 以上の2点から、当時の「最悪のシナリオ」が4号機プールの危険性を強く認識していたことが改めてわかります。では、現在この危険性は去ったのでしょうか?とんでもありません!メルダウンとかメルトスルーが騒がれていますが、未だにもっとも危険なのは4号機プールなのです。
 4号機は水素爆発によってメチャクチャに壊れています。4、5階は骨組みがむき出しになっている上に全体がピサの斜塔のように傾いています。プールというのは建屋最上階の5階フロアにあります。これは原子炉格納容器の上蓋を開けて燃料交換をするためです。建物の構造的には非常に不安定なところにプールが載っているのです。東電は夏までに鉄骨とコンクリートで補強工事を行いましたが、どれくらい耐えられるか分かりません。これまでの震度4クラスの余震には耐えてきましたが、強い余震が来た時の耐えられるかどうかはまったくわかりません。保管燃料は発熱量が大きいためにすぐには取り出すことはできませんし、そもそもクレーンなどのオペレーション施設が破壊されている上に、高放射線環境では簡単に作業もできないので、当分はこのままプールで冷やし続けるしかないでしょう。(東電は2年後に取り出し開始としています。)
 したがって、今考えられる「最悪のシナリオ」は「地震による4号機プールの崩壊」ということです。一気に崩壊したり傾いて水が抜けてしまえばもはや手をつけることができません。推定では、2時間ほどで放射性物質が漏れ始め、7時間ほどで燃料の溶融が始まると見られています。その後は「政府が想定した「最悪のシナリオ」通りに大量放出へと突き進みます。
 収束どころか破局的展開すら想定される今後「最悪のシナリオ」は今でも生きているのです。のんきに収束宣言などを出して、住民帰還を目指すなどと言っていますが、さらなる放射能大量放出の可能性が消えていない状況では、住民の安全は神頼みのようなものです。しかも、「最悪のシナリオ」が想定する移住避難エリアはとてつもなく広大です。強制移住170kmといえば栃木も群馬も茨城もほぼ私の家(足利市)近くまで入ります。任意移住250kmで首都東京を含む関東のほとんどと新潟や東北の半分まで入ってしまいます。そうなったら、本当に日本は破滅です。
 最近になってまた地震が増えています。1/23夜の地震では浜通りで震度5を記録しました。その時もすぐに、4号機プールは?と不安ですぐさま情報収集です。NHKニュースでは1〜3号機で異常なしという東電発表をくりかえすだけなのでかえって不安になりました。少なくとも危機を認識している人たちの間では、4号機プールが一番の問題なのです。あの時避難を準備した人もいたほどです。また、4号機プールは海外のニュースでも話題になっているらしく、避難しなくてもいいのかという海外友人からのメールも届くほどです。
 現在日本では、4号機プールの危機という「最悪のシナリオ」は余程注意しないと耳に入ってきません。もちろん政府はしらばっくれています。マスコミも3月の時と同じです。おそらく「恐怖を煽る」からと自主規制しています。結局、何も変わっていません。

「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」原子力委員会近藤駿介(平成23年3月25日)・・・これが封印されていた「最悪のシナリオ」・・・続きを読むをクリック
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.neo-logue.com/file/1F_unexpected_accident_sketch.pdf

最悪シナリオ、福島事故後に検討 政府は公表せず(47ニュース・共同通信)
http://www.47news.jp/CN/201201/CN2012010601000941.html

4号機倒壊の危険性と40年原則廃炉について 小出裕章(たね蒔きジャーナル)
http://hiroakikoide.wordpress.com/2012/01/10/tanemaki-jan9/

4号機プール、一時燃料損壊の恐れ 6月時点の解析公表(朝日新聞10/14)
http://www.asahi.com/science/update/1014/TKY201110140525.html

4号機の原子炉は沸騰していた(ブログ「原子力緊急事態宣言」)このブログではかなり詳しいデータが見られます
http://phnetwork.blogspot.com/2011/11/blog-post_23.html

使用済燃料プール対策の活動方針(東京電力12/26)
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/111226_02p.pdf