いちばん怖いのは「心の汚染」〜たくきよしみつ2011/11/16 07:16

 作家のたくきよしみつ氏が、東京新聞文化欄に「原発『警戒区域』の隣で」というエッセイを寄せています。たくき氏は福島第1原発から30キロ圏内の川内村に暮らしながら発信を続けています。今日は2回目、田舎の事情を内側から書いています。
 国によって作付け禁止区域に設定された川内村で唯一コメ作りをした一人の農民秋元さんのことが紹介されています。コメ作りに対するこだわり、自分の田んぼで作ったコメにどれだけ放射性物質が含まれるか調べたいとして収穫したコメは、県と村の役人が来て一粒残らず捨てさせられました。村にはお上に逆らったら補償金はもらえぬ、放射能が検出されなかったら補償交渉がやりにくくなると考える人たちもいるのです。
 「これで一生俺たちの生活は東電と国が見てくれる」と話す原発地元からの避難民の声にショックを受けます。今、福島に残り生活再建を誓っていた人たちが続々と福島から去っているといいます。放射能が怖いからではなく、愛する福島の地で、人々の心が汚染されていくのを見届けることに耐えられないからだと、たくき氏は言っています。
 最後の部分をそのまま紹介します。
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 農業に限らず、人の営みは「生きがい」によって支えられている。秋元さんのコメも彼の「生きがい」によって育てられた。いちばん怖いのは、人々が生きがいやプライドを金に換えてしまう「心の汚染」だ。他にも理不尽なことが数えきれないほど起きている。今の福島が抱える闇をしっかり見つめて、日本中の人が立ち向かわない限り、真の復興はあり得ない。(終)
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 「心の汚染」・・・それはとても重たい言葉です。これまでも原発は人々の心を汚染し続けていました。ドイツでは原発政策を選択するにあたって「倫理委員会」をつくり、原発は「倫理的でない」という結論に達したといいます。ベクレルやシーベルトやワットや円で計れない大切なものがあるのではないでしょうか。

 たくき氏は、3.11以後、 ブログ「あぶくま(原発30km圏内生活)裏日記」で発信を続けています。私もかかさず拝見しています。91年にすばる新人賞をとった小説「マリアの父親」は福島の原発問題が絡んだ作品です。つい最近、 「裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす」を出版されました。

原発なしで電気は足りる〜序2011/11/17 06:13

原発なしの電力
 「電気が足りないから原発は必要」あるいは「電気のことを考えれば仕方ない」・・・学校で生徒たちに聞いてみると、意外にこの答えが多いことに驚きます。これだけの事故を経験していながら、なんで!?と思う反面、彼らがそう思うのも当然かもしれないと思います。今の高校生たちは、生まれた時からスイッチポンの世界で生きています。電気のない生活など想像もつかないでしょう。また、彼らの情報源はほとんどテレビです。事故後、節電キャンペーンの大合唱で電力危機感を刷り込まれています。それと、これが決め手だと思いますが、実際に停電を体験させられたことです。放射能の怖さは体験できませんでしたが、停電の不便さを身をもって体験しました。私は、今でもあの停電は電力危機演出のための「計画的停電」と思っています。
 高校生だけでなく多くの人たちがいまだに「電気が足りない」と思っています。原発止めたら電気はどうするの?と聞かれます。原発の危険性を理解しても「でも、しかたない」「すぐには止められない」と言われます。脱原発は理想論、現実は減原発などと言い始めています。これらは、すべて電力不足への危機感、停電への恐怖にもとづくものです。
 マスコミ総動員でくりかえしくりかえし「電気が足りません」「節電しましょう」というメッセージが送られてきます。これがエネルギー大量消費社会の見直しであるならば大賛成です。しかし、今送られてくるメッセージは、「原発が停止しています」→だから「電気が足りません」「節電しましょう」というメッセージなのです。そんなプロパガンダの中で、知らず知らずのうちに「電気は足りない」「原発がないと・・・」と頭の中に刷り込まれてしまうのです。ウソも百編言えば本当になる式に。
 実は、原発を再稼働させるにあたって最大の論拠となるのは、ストレス評価や安全審査ではありません。「電気が足りない」から・・・仕方なく・・・ということになるでしょう。それが日本式です。それがよく分かっていて、国も電力もそういう流れを作ろうとしているのです。
 さて、悲観的な話が長くなりました。実は今回私が言いたいことは「原発なくても電気は足りる」ということです。またかと思われるかもしれません。そうです「また」です。国を見習って、繰り返しくりかえし言い続けなければいけません。
 1億6297万キロワットという数字、これを頭に入れておきましょう。これは今月1日に国が発表したもので、いわば公式データ。原発なしでどれだけの電力を賄えるか?という数字です。たぶん国は初めてこの数字を出しました。意外と大きいな!と私は思いました。「なんだ、やっぱり足りるじゃん」!!!!
 詳細は次回以降・・・

安全宣言を撤回し全量検査を〜コメ2011/11/18 21:08

低レベル内部被曝の蓄積
 安全宣言したはずのコメから暫定規制値を超える1kgあたり630ベクレルの放射性セシウムが検出されて大騒ぎになっています。たまたまJAの自主検査で見つかったものです。今さら何をやっているのか、あきれてものが言えません。佐藤知事は農民に謝らなければいけません。そして「安全宣言」を撤回し、早急に全量検査を行なうべきです。このままでは、福島のコメは誰も買わなくなります。ほんのわずかなサンプル調査で「福島のコメは安全です」と見切り宣言をした佐藤知事こそ「風評被害」の元凶です。
 今回、汚染米が見つかった福島市大波地区は、市の中心部から東へ8kmくらい離れたところにある低い山に囲まれた集落です。文科省の汚染地図ではセシウム134と137合計で1平方メートル当たり30万〜60万ベクレルの汚染濃度で福島市の中でも比較的高い地域です。ここには154戸のコメ農家がありますが、県の本検査が2地点と福島市の検査が4地点の計6地点のサンプル検査が行われただけでした。生産者全体のわずか4パーセントほどです。福島県全体でもこの程度のサンプル検査ですから、今回のような事態は誰もが予想したことです。
 国は汚染米が出た地区は全量廃棄処分としていたのに、急遽方針を変え、出荷停止にしました。そして今から地区内の農家全戸検査を行うとしています。このように、すべての対応が場当たりです。はっきり言って大波地区だけの問題ではありません。県内すべての地区で全量検査を行わない限り、安全宣言を誰も信用しません。
 国や県は今回の数値を「特殊なケース」として片付けたいようです。山から放射性物質が流れ込んだとか、土壌1kgあたり5000ベクレルほどの汚染だったとか、今になって急に言い始めました。でも、そんな田んぼは福島に山ほどあるのです。
 もうひとつ見過ごせないのは、マスコミ報道の中に、「精米すると6割除去される」「食べてもただちに健康に影響ない」というコメントが見られることです。読売、毎日、朝日もみんなそうです。そんなことを言うなら規制値とはいったい何なのでしょう。少なくとも「規制値超え」は食べてはいけないとしているのですから。
 上のグラフは今回の汚染レベルのコメを毎日食べ続けた時に体内に蓄積されるセシウムの量を試算したものです。仮に毎日2合ずつ食べ続けるとします。約72ベクレルです。セシウムの体内半減期を100日として計算しています。なんと、1年で1万ベクレルを超えます。それでもあなたは食べ続けますか?

コメの汚染 全量検査に取り組め(中日新聞社説)
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2011111802000010.html

セシウム米、僕が一番恐れていたこと(農家の婿のブログ)
http://ameblo.jp/noukanomuko/entry-11081118043.html

でんき予報をやめた中部電力2011/11/19 21:27

中部電力「でんき予報」
 この夏は電力各社が一斉に「でんき予報」をやって見せました。「電気がいかに足りないか」をビジュアルに見せることで節電を促すというのが「でんき予報」のねらいでした。その日の供給力と需要予測を並べてみせて何%とかいうものです。
 浜岡原発が停止した中部電力も原発停止による電力危機をアピールしようと「でんき予報」を発表したのですが、ほとんど毎日が余裕を示す緑の表示でした。当然、利用者からは、電気が足りているのではという声が上がりました。
 11/17の朝日新聞の記事によると、中部電力はこの冬「でんき予報」を実施しないとのことです。その理由が「節電につながらない」から・・・?、いつも緑マークで「常に電力に余裕があるかのような誤解を消費者に招いてしまった」(中部電幹部)というのには、思わず苦笑します。この冬も毎日緑マークを見せてしまえば、「浜岡原発なんてまったくいらない」と思われかねないというのが本当の理由でしょう。
 政府が11/1に発表した電力予想をみても、中部電力は9電力の中でも特に余裕があります。原発ゼロでも夏のピーク電力不足もないということが、国のデータからも示されています。電力不足どころか、関西電力などへ電力融通する手はずになっています。
 国も電力もマスコミも、電気が足りないところばかりを強調していますが、日本全体で見れば電気が余っているところがあります。余っているところから足りないところに電気を流せば全国で電気は足りるはずなのです。原発がなくても。

でんき予報「節電につながらず」 中部電、今冬は見送り(朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/1117/NGY201111170006.html

今冬の電力需給見通しについて(中部電力)
http://www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_release/press/__icsFiles/afieldfile/2011/10/05/besshi21004.pdf
これを発表したときは、この冬も「でんき予報」を実施するとしていました。その後どんな検討があったのでしょう。
中部電「冬も節電を」 12月~2月、でんき予報も実施(朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/1004/NGY201110040025.html?ref=reca

「裸のフクシマ」原発30km圏内で暮らす〜たくきよしみつ(本の紹介)2011/11/20 22:25

「裸のフクシマ」たくきよしみつ
 今回紹介する本は、3.11以後数々出版された原発関連本の中でも異色の存在です。それは3.11以後の福島を内側から書いた数少ない本だからです。著者のたくきよしみつ氏は福島第一原発から25kmの川内村に今も暮らし続けています。この本には、マスコミがまったく報じない3.11以後に地元で始まった悲喜劇が克明に描かれています。そこに暮らす人間の視点から描かれた福島は、外部の高みから論じられる福島とは一線を画しています。私はこの本を読んで、自分が勝手に作っていた福島像があったことに気づかされました。
この本、まさに今読んでほしいお薦めの本です。

裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす(2011/10/15発売 講談社 単行本)
ニュースでは語られないフクシマの真実を、原発25kmの自宅からの目で収集・発信。驚愕の事実とメディアが語ろうとしない本音の提言が満載。
第1章 「いちエフ」では実際に何が起きていたのか?
第2章 国も住民も認めたくない放射能汚染の現実
第3章 「フクシマ丸裸作戦」が始まった
第4章 「奇跡の村」川内村の人間模様
第5章 裸のフクシマ
かなり長いあとがき 『マリアの父親』と鐸木三郎兵衛

もっと詳しい目次とまえがきが収録された 「立ち読み版」がありますのでご覧ください。