わずか0.5ミリの壁ー浜岡原発海水流入事故2011/05/16 20:19

原子炉と復水器(原子力教育支援情報提供サイトより)
 浜岡原発5号機に「海水」が入りました。流入量は約400トン、だいたい25mプール1杯分です。このたびの停止作業中のことで、さすがに隠しようがありません。中電にとってはまさに最悪のタイミングでした。
 どうして、こんなことが起こるのでしょう。実は、流入量の違いはありますが、同様のトラブルはたびたび起きています。復水器細管が破れて、そこから海水が炉水循環系に入り込むということで、「復水器細管の海水漏れ」事故と言われてます。ここは原発の弱点の一つで、原子炉の一次冷却水系と外界の海水がわずか0.5〜1.2ミリメートルの薄い壁で接しているところです(沸騰水型の場合)。水流、振動、腐食、異物など様々な原因で細管が破れます。過去には、フジツボが詰まって穴が開いたこともあります。今回、何が原因で、どこがどの程度破れたかはまだ分かりませんが、400トンも漏れたということはかなり大きな破断ではないかと考えられます。
 どの原発でもタービンを回した後の水蒸気を冷やして水に戻すための復水器というものがあります。効率よく冷やすために、細い管をたくさん並べて、その中に海水を流します。それを「復水器細管」といいます。内径3センチメートルほどのパイプがおよそ3万本もあります。その中を海水がザーっと流れて、その冷たい細管の外側を、原子炉で発生した熱い水蒸気が通っています。細管の金属壁の厚さ、わずか0.5ミリメートル!つまり、魚が泳ぐ海の水と、放射能まみれの原子炉の水が、この細管の薄い壁で隣合せになっているのです。まさに紙一重で原子炉と外界が仕切られている事実はあまり知られていません。
 原発PR館などに行くと、厚さ15センチもある分厚い鋼鉄の圧力容器の壁が展示されています。原子炉を守る壁はこんなにすごいから(放射能が漏れることなんてありません)、安心してください、というメッセージです。しかし、実際は、様々な配管が伸び、ついに末端では、0.5ミリの壁になっていることは、決して教えてくれません。
 浜岡原発の5号機は、復水器細管が破断しているとすれば、原子炉内と外界がつながっているということです。おそらく、復水系を遮断して別系統で冷却を維持していると思いますが、もう、このままでは動かせない状態になっています。しかも、海水の混入により一次系配管やバルブ、計器が損傷する可能性もあります。イオン交換塩分除去系で浄化するとしていますが、信頼性の低下は避けられません。
 浜岡で一番新しい5号機、出力138万キロワットは日本最大です。2005年に運転を開始しましたが、2009年には駿河湾沖地震で想定以上の激しい揺れを記録して自動停止、今年の2月に運転を再開したばかりでした。もしかすると、地震の影響で弱くなっていた細管が、停止に伴う出力変動で破断したとか、これはあくまで想像ですが。
 いずれにしても、このまま廃炉にするしかないでしょう。浜岡に関しては、再開はありえません。

(追記)新しい原発では、復水器細管はチタン合金製で肉厚0.5〜0.7ミリメートル、復水器1台あたり1万5千本で、復水器は2台ということを確認したので訂正します。女川原発3号機で2007年に起きた海水漏れ事故の記録から分かりました。
http://www.tohoku-epco.co.jp/whats/news/2007/02/27a.html