大飯原発停止・・・危険性の証明2011/07/18 11:15

PWRの安全装置
 7/16、関西電力の大飯原発1号機がトラブルにより手動停止しました。これによる 電力不足問題ばかりが騒がれていますが、本質は別の所にあります。まず、どんなトラブルなのかを考えてみます。
 福島原発は緊急時に原子炉を冷却できなかったために、あんな巨大事故になりました。どんな原発でも冷やせなくなったら終わりです。今回のトラブルは緊急時に原子炉を冷やすためのもっとも基本的なシステムが作動しない恐れを露呈したものです。

 大飯原発のような加圧水型(PWR)の原子炉では、原子炉内の冷却水が300℃150気圧というような高温高圧状態になっています。ですから、最も恐ろしいのは、原子炉圧力容器や1次冷却系配管のどこかから、加圧された冷却水が吹き出して失われてしまうことです。 スリーマイル島原発事故では、原子炉冷却ができなくなって内圧が上がり、加圧器逃がし弁という安全弁が開いた際に、そのまま固着してしまったため、大量の冷却水が蒸発して失われてしまい、結局メルトダウンを起こしました。このような事故を冷却材喪失事故と呼び、原発で最も恐ろしことです。
 そのような事故に対処するために、非常用炉心冷却装置(ECCS)がついています。緊急時に原子炉に冷却水を注入して冷却するシステムは、最も重要な安全装置です。加圧水型原子炉では、蓄圧注入系、高圧注入系、低圧注入系の3系統が用意されています。今回のトラブルは、このうちの蓄圧注入系で起こりました。
 蓄圧注入系というのは、非常用冷却水(ホウ酸水)の入った高圧タンクを原子炉の1次冷却水配管につなげた、非常にシンプルな安全装置です。一つの原子炉に4つの蓄圧タンクがついています。何らかの事故で冷却水が失われて、炉の圧力が一定以下に下がると、圧力差によって配管の逆止弁が開き、蓄圧タンクから圧力容器内に非常用冷却水が流れ込むようになっています。蓄圧注入系は圧力差で自動的に働くので、外部電源を必要としません。その点も非常にシンプルです。他の非常用注入系はポンプ駆動するので外部電源が必要です。
 今回のトラブルは、このタンクの圧力が20%以上低下したというものです。通常、蓄圧タンクには高圧窒素ガスを注入して40気圧ほどに加圧されています。その圧力が足りなければ緊急時の冷却水注入がうまくいきません。仮に電源喪失の場合などは、蓄圧注入系しか働かないのですから、極めて重大な問題です。おそらく、高圧窒素ガスがどこかから漏れたと考えられます。例えば安全弁のリークなどが考えられます。
 今回は可能性は低いと考えられますが、高圧窒素ガスが配管を伝わって高圧注入系や低圧系に漏れている場合があります。そうすると他系統の非常用冷却水に窒素ガスが溶け込んでしまい、緊急時にECCSの高圧系や低圧系が作動した時に、窒素の泡が発生しポンプ機能が低下したり最悪破損することもあります。
 このように、蓄圧タンクというのは単純なものですが非常に重要なものです。 今年4/13の衆議院経産委員会で稲田委員(自民)が、PWRの蓄圧タンクについて安全確認しているのか、と質問しています。これに対して原子力安全保安院長寺坂参考人が、改めてしっかり検討をすすめていかなければいけない、と答弁していました。
 破局的事故を防ぐ最後の砦がECCSです。その信頼性に疑問符が付くようでは、もはや安全とは言えません。よく、多重防護システムがあるから、どこか一つの系統が壊れても別系統でカバーするから安全、と言われます。しかし、過去の大事故は、ドミノ倒しのようにトラブルが連鎖的に拡大して、結果的に多重防護が破られています。

 関西電力は圧力低下の原因が不明なので停止して調べると言っています。関電は、原因究明して修理改良再発防止と言うでしょう。しかし、ことはそれほど簡単ではありません。なぜなら、今回のトラブルは定期点検終了前の調整運転中に起こっているからです。調整運転とは運転しながら最終チェックをするため通常1ヶ月くらい行います。今回は福島原発事故のため最終認可が下りない状態で、なし崩しに 4ヶ月も運転し続けていました。もちろん、発電した電気は売っていますから、実質的には営業運転そのものです。本来、それ自体許されないことです。安全点検や国の認可のいい加減さが、ここでもまた明らかになりました。なお、現在、北海道電力の 泊原発3号機も同様の調整運転中です。
 大飯原発1号機は1979年運転開始から32年経過した老朽炉です。運転開始直後からトラブル続きの原子炉で、安全性が懸念されている炉の一つです。国は今さら大飯1号機をストレステストの一次評価の対象とすると言っています。これで、早期再開は不可能でしょうが、はっきり言って、このまま廃炉というのがスジでしょう。

 今回のトラブル、マスコミの報道や国の対応は、停止による電力不足ばかりを問題にしていますが、それを言うなら今まで脱法的に動かしていたことの方が問題です。問題の本質は原子炉の安全性が確保されていないということです。

電力不足はありません2011/07/20 07:43

 7/19(月)、東電のピーク時供給力が、5540万kWになっていました。さらに、今日(7/20)は、5560万kWです。かなり大きな数字を出すようになったことにお気づきでしょうか。
 東電は、7/15に 今後の供給見通し(第6報)を発表、50万kW上積み修正しました。これで7月末の最大供給力は5730万kW、8月末は5610万kWの見通しとなりました。東電は、いつも小出し小出しに発表しているので、この調子では、またいつ数字が変わるか分かりませんが、東電の言う通りなら、これで、今夏の電力需要はクリアーできるでしょう。しかも、東北電力への応援送電も可能になります。ちなみに、7/14には、広野火力4号機(100万kW)が運転を再開しています 家電Watch
 真夏のピーク電力は、平日の午後で、後は気温次第です。気温が30℃以上の時さらに1℃上昇で170万kW電力需要が増えるという経験則 (東電資料)があります。今のところ、先週7/15に記録した4640万kWが今夏最大ですが、その時の最高気温が33.7℃でした。記録的猛暑を記録した昨夏の最大需要は7/21午後2〜3時の5918万kWで、その日の最高気温は東京で36.3℃でした。ですから、昨年並みの猛暑なら、あと3℃上昇と考えて、さらに513万kW需要が増えるとします。そうすると、5153万kW必要となりますが、これでも東電の供給力見通しに対して相当な余裕と見て良いでしょう。なお、東電の今夏最大需要の想定は5500万kWとなっています。
 このところ、気温の割には電力需要が大きくなっていません。もしかすると、東電が思っている以上に需要が下がっているのではないでしょうか。いまさら、節電のやりすぎ?と反省しているかもしれません。実際、ピーク時最大電力需要は2001年の6430kWをピークに後は増減を繰り返しながら少しずつ減ってきています。 (東電資料)大きな原因は経済の落ち込みや停滞です。それと節電も進んできました。瞬間的なピークは気温の影響を大きく受けますが、それでもこのところの大きな流れは、電力消費の縮小傾向なのです。
 余談ですが、東電などがさかんに売り込んだ「オール電化」とは、電力会社の売上げ回復策だったということがよく分かります。
 政府やマスコミは、ここまで見通しがはっきりしてきているのに、まだ「電力危機」などと煽り立てています。原発が止まると電力が足りないというのは、原発を前提に供給計画を立てているからです。今や全原発停止後の電力供給計画を考えるべき時です。
 限りある資源、限りある地球環境の中で、いつまでも、経済だけが無限に拡大成長を続けられるはずがありません。もはやエネルギーの大量消費時代は終わったと考えるべきです。子々孫々、未来まで持続可能な社会を作るためにどうすべきか考えましょう。

平和の意味を考える・・・映画『Peace』(日記)2011/07/26 22:36

映画『Peace』
 この作品はドキュメンタリー映画作家の想田和弘監督の最新作です。私は、監督が足利出身ということ以外、何の事前知識も持たずにその映画を観に行きました。チラシを見て、猫と老人の映画くらいにしか考えていませんでした。結果的には、それが良かったのかもしれません。何の先入観もなかっただけに、それは、まさに「発見」の映画でした。そんな訳で、ここで、映画の紹介をしてしまうのをちょっと躊躇います。無心で観て欲しい、そんな映画でしたから。
 想田監督がカメラを向けたのは、岡山で暮らし、福祉の仕事に携わる義父母とまわりの人々、義父が庭で世話する野良猫達の静かな日常でした。”福祉有償運送”という名のボランティアで障害者を送り迎えして買い物につき合ったり、狭い路地裏の老人宅をヘルパーしてて思わず戦争体験を聞いたり、裏庭では猫世間に波風が立っていたり、そんな日々の普通の暮らしの中に、「平和と共存」のカギがあったのでした。
 監督自身の言葉を借りれば、「ゆずることが共存の条件。多様性が平和の基盤。多様であることが許されること、それが平和であるということ。寛容は平和の種子。不寛容は戦争の種子。」強いものがゆずること。受け入れること。それは野良猫の集団が私たち人間に見せてくれた「平和と共存」の知恵でした。様々なハンデを持つ人も、人に迷惑をかけながらも、普通に生きていける。そんなあたりまえの日常が「平和」そのものでした。
 今、私たちの暮らしは『Peace』=「平和」なんだろうか? 戦争をしていないから「平和」と、簡単には言えません。人々が、ピースフルな暮らし、平和な日々を送れるということが、本当の『Peace』=「平和」です。

 3.11以後にこの映画を観る意味というものを、私は改めて考えました。たくさんの人々が震災によりそれまでの日常を奪われました。そして、たくさんの人々が原発と放射能におびえながらの暮らしを余儀なくされています。自分の家で、自分の街で、生きて、暮らして、死んでいくというあたりまえの生活を奪うものが原発でした。
 災害は自然現象ですが、戦争は人間が起こすものです。原発は人間が作ったものです。私は原発というものが、いかに「反平和的」で暴力的な存在かということを思い知りました。
 かつて、原子力発電のことを原子力(核)の「平和利用」と名付けて、この日本に持ち込んだのは一体誰でしょう。広島長崎の悲劇、第5福竜丸の悲劇を経験した日本人は、核=戦争という認識と、核を拒否する感覚を持っていました。ところが、「平和利用」という言葉に騙されて、原子力(核)を受け入れてしまいました。将来的に核武装したいと思っていた当時の一部政治家やその周辺による、強引な原発導入と日本人の意識改造計画があったとする見方もあります。
 いずれにしても、「平和」という視座から「原発」を考え直すことが必要だと痛感しました。単なる、技術論や電力問題だけで論じていては、原発危機の根本は見えてこないと思います。

 この映画、「平和」の意味をもう一度見つめ直す、ささやかな日常を描きながら、そんな大それた問題を提起する、素晴らしい作品でした。
 映画『Peace』公式HP http://www.peace-movie.com/index.html

電力不足はなかった・・・東電7月の電力需給2011/07/31 23:46

7〜8月、各週の最大需要想定値
 7月になって、東電は毎週「今夏の需給見通しと対策」を発表しています。この中で、毎回必ず変わる数字があります。それは、「各週の最大需要想定値」です。7/1発表の第4報から7/29の 第8報を見比べてみました。上の図参照
 発表するたびに、直近の1週間分の想定値を大幅に下方修正しています。最高気温の週間予報に従って下方修正しているものと思われますが、あまりにも想定値が変わりすぎます。例えば、7/29発表の第8報では、7/30〜8/6の最大需要想定値は4310万kWですが、一つ前の第7報では5500万kWでした。1200万キロワットもの下方修正をするのは余程のことです。
 東電は今夏の最大需要を5500万kWと想定しています。それは、いつも予測第2週目以降が一律5500万kWとなっていることからも分かります。この5500という数字は、昨年並の猛暑(36℃)と仮定した上で、大口需要家の15%節電を織り込んで出されたものと考えられます。
 ところが、最高気温がそれほど上がらないことと、節電が想定以上に行き届いていることから、電力需要は予想以上に落ち込んでいます。昨年同期で気温も同じ条件で比較すると、例えば、7/29(金)は最高気温29.4℃で最大需要3871万kW、昨年の7/30(木)は最高気温29.2℃で最大需要5053万kWでした。およそ23%減となっています。昨年の最大需要5999kW(7/23、35.7℃)と今年の最大4627kW(7/15、33.7℃)を比較しても23%減です。
 結果的に今夏のピーク時最大電力需要は昨年の2割以上減っています。それは気温と対応させてもほぼ同様です。このような状況を踏まえて、改めて今夏最大需要を予測すれば5500万kWは過大な予測ではないでしょうか。お盆過ぎに暑さがぶり返したら余談を許さないなどと言っていますが、昨年8/17(火)最高気温37.2℃(東京)で最大需要5887万kWでした。それから考えても今夏5500というのは、今となっては過大な見積りと言えるでしょう。
  8月の月間天気予報が気象庁から発表されています(7/29)。これによると、前半は平年より晴れの日が少なく気温も低めと予想、後半の3〜4週に平年並か高めをそれぞれ40%と予想しています。8月後半の暑さがどうなるかの予想は、もう少しするとはっきりしてきます。その時に、もっと確度の高いピーク予測を行い、ピークカット対策を実施すれば良いことです。
 仮に5500万kW予想通りでも供給力範囲内ですから心配はいりません。いずれにしても、東電管内で今夏の電力不足は起こらないでしょう。それどころか、東北電力への応援も可能です。そろそろ、涼しい日にも意味のない節電を強要している「過剰節電」を見直した方が良いと思います。